研究課題
統合報告に関する議論は、グローバルに見てもここ数年大きな進展は見られず、実務においても統合報告書作成企業数も頭打ちの状況にある。しかしながら、そのことは統合報告そのものの意義が低減したことを意味するものでは決してない。むしろ、統合報告ないし統合報告書のベースにある「統合思考」は世界中の多くの企業で確実に根付きつつあるとみて良いだろう。統合思考は、財務諸表を中心とする短期的思考から、組織の価値創造プロセスを長期的な視点から問い直し、各種の企業資本を事業戦略に結びつけながら統合的にマネジメントすることを目指す。それは、1990年代後半に登場したバランスト・スコアカード以降、管理会計が追い求めてきた方向性と完全に合致する。そのことから、本研究では従来ややもすると財務会計的な視点で議論されることの多かった統合報告を管理会計的な観点から補完することを企図した研究を行ってきた。一連の研究を通じて、統合報告に盛り込まれた企業のメッセージは外部の投資家をはじめとする利害関係者のみならず、組織内部の構成員に対しても企業の一員としての確かな自覚と、企業目的ならびに戦略の実現に向けた動機づけを与えていることを、インタビュー調査ならびに実態調査を通じて明らかにしてきた。さらに、2020年以降においては、度重なる企業の品質不祥事および排出量取引市場の開設や炭素課金導入に絡めて、当該問題の影響の開示が統合報告の重要な一部を構成するものと目されるようになってきた。前者については品質コストが、また後者に関しては社内炭素価格の設定が各課題の解決を支援する可能性が出てきた。いずれも、管理会計システムの新たな貢献の在り方が展望されるトピックスであり、本研究の終盤ではその展望に多くの時間が割かれてきた。なお、当該課題に関する研究は今後も継続する予定であることを申し添えておきたい。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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