研究課題/領域番号 |
18H00919
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長谷川 公一 東北大学, 文学研究科, 教授 (00164814)
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研究分担者 |
喜多川 進 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00313784)
池田 和弘 日本女子大学, 人間社会学部, 講師 (20590813)
野澤 淳史 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 学術研究員 (30758503)
中澤 高師 静岡大学, 情報学部, 准教授 (50723433)
平尾 桂子 上智大学, 地球環境学研究科, 教授 (70158335)
中川 恵 山形県立米沢女子短期大学, その他部局等, 講師 (70781160)
明日香 壽川 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (90291955)
TRENCHER GREGORY 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (90802108)
佐藤 圭一 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (40757093)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 気候変動政策 / パリ協定 / 政策決定過程 / 政策ネットワーク / エネルギー政策 / メディア分析 / 再生可能エネルギー / 脱炭素社会 |
研究実績の概要 |
環境社会学の分析視角から、日本・韓国・中国・台湾の気候変動政策・エネルギー政策の政策形成過程の国際比較をすすめてきた。本研究では、2011年の福島原発事故と2015年12月のパリ協定締結を契機とした脱炭素と脱原発を両立させるようなエネルギー政策の転換に着目する。台湾は2025年までの原発全廃を2017年1月に決定したが、2018年11月の住民投票で原発推進派は、この期限の削除に成功するなど、揺り戻しが起きている。電力供給に占める原発依存率は28.7%(2014年)で、フランスの78.2%に次いで世界で2番目に高い韓国も、2017年5月に発足した文新政権が、今後40年以内の原発全体をめざすとして、原発拡大路線からエネルギー政策の大転換に踏み出すことを宣言した。再生可能エネルギーによる電力供給を2030年までに20%に高めることを目標としている。原発推進派の抵抗にあいながらも、台湾・韓国は、大統領主導で、脱原発・再生可能エネルギー政策重視のエネルギー政策への転換をめざしている。中国は、発電容量ではアメリカ・フランスに次いで世界3位の原発大国であり、現在さらに13基の原発が建設中で、原発技術の海外輸出にも熱心である。 気候変動政策とエネルギー政策について包括的な情報収集に努め、気候変動枠組条約事務局、IEA(国際エネルギー機関)、IAEA(国際原子力機関)、OECDなどが発表してきた関連データを整理し、中国・韓国・台湾の連携協力者と協力しながら、関係問題の年表作成・主体連関図・政策ネットワーク図の作成を続けている。 ローカルなレベルでの紛争事例として、日本の女川原発・浜岡原発・仙台港における石炭火力発電所建設問題、韓国の古里第5・第6号機建設問題、ソウル市近郊での石炭火力発電所問題、台湾の第四原発建設問題、高雄市近郊での石炭火力発電所問題に関する情報収集に努めてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年3月に東京で開かれた第1回東アジア社会学会の折に、韓国・台湾から研究協力者を招聘し、気候変動政策とエネルギー政策の転換に関するシンポジウムを開催し、研究交流と意見交換を行った。輸入石油への依存率の高さ、資本あたりのエネルギー消費率の高さ、再生可能エネルギーへの依存率の低さ、原発推進派の根強い抵抗など、日中を含む4ヶ国が直面する問題状況の共通性と相違点が明確になった。 2012年以降、日本で新たに計画決定された計50基の石炭火力発電所建設計画のうち、2019年3月末までに計13基の計画が中止もしくは木質バイオマス専焼などに燃料転換することが明らかになった。とくに東京湾岸の6基の建設計画のうち、千葉県側の4基が中止になったこと、13基あわせて約4151万トンのCO2の排出が削減され、2030年度の政府のCO2排出目標値の4%相当分が削減されたことが注目される。このような動きはパリ協定成立以降の国際世論の厳しさ、英国・カナダなどによる「脱石炭発電連合」の発足(2017年11月)、石炭火力への金融機関によるダイベストメント(投資抑制)の動き、仙台や神戸で提訴が重なったことにともなう日本における石炭火力発電所の訴訟リスクの顕在化を背景としている。ただし、日本政府は、原発と石炭火力発電をベース電源として重視する政策に固執している。トレンチャーを中心に、日本の商社各社がなぜ石炭火力発電に固執するのか、資料の分析や聴取調査を重ね、長谷川・明日香を含む連名の英語論文として投稿中である。 太陽光発電と農業の両立をはかるソーラーシェアリングや木質バイオマスを始めとした地産地消型の再生可能エネルギーの利活用によって、里山や中山間地域の活性化をめざす動きも全国的に加速化している。沖縄・高知・長野・宮城県での最新の動きを現地調査し、進展状況や課題・行政との関係などについて情報収集を行った。
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今後の研究の推進方策 |
グローバルなレベルでの分析は、初年度に引き続き、気候変動政策とエネルギー政策についての包括的な情報収集を行い、気候変動枠組条約事務局、IEA(国際エネルギー機関)、IAEA(国際原子力機関)、OECDなどが発表してきた関連データを整理する。ナショナルなレベルでの分析は、 中国・韓国・台湾の連携協力者と協力しながら、関係問題の年表作成・主体連関図・政策ネットワーク図の作成を続けるとともに、気候変動政策ネットワークの国際比較分析データの2次分析を進める。ローカルなレベルでの紛争の展開過程のそれぞれの特質の考察を進めるために、各国の連携研究者・研究協力者と協力し、1)中央政府の政策に影響を及ぼしうる団体の代表者に対して半構造的な聴取調査を行い、2)テキストデータ分析ソフトを用いて、聴き取り調査データのコード化をはかる。3)政策的な主張と影響力の大きさを考慮し、キ ープレイヤーのネットワーク図を編成する。4)気候変動政策を主管する環境省と経済官庁、政府と与野党、環境 NGO、 業界団体、メディアなどのステイクホルダー的な諸勢力、4ヶ国それぞれの国内的ファクター、IPCC の調査報告書、温暖化防止国際会議(COP) などの国際的な動向、排出権取引市場の動き、福島原発事故などの国際的なファクターがどのように連関して、影響力行使の場を規定したのか 、政治的機会構造と気候変動にかかわるフレーミングに着目して比較分析を行う。5)とくに抵抗勢力・反対勢力との相互作用に着目する。6)あわせて、上記のグローバルなレベ ル、ナショナルなレべルでの政策との整合性、相互的な影響関係を比較検討する。
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