研究課題/領域番号 |
18H00920
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福永 真弓 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (70509207)
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研究分担者 |
丸山 康司 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (20316334)
富田 涼都 静岡大学, 農学部, 准教授 (20568274)
鬼頭 秀一 星槎大学, 共生科学部, 教授 (40169892)
宮内 泰介 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50222328)
友澤 悠季 (西悠季) 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (50723681)
大倉 季久 桃山学院大学, 社会学部, 准教授 (90554147)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 開発・公害跡地 / 再生 / 環境正義 / 社会的包摂 / 環境ジェントリフィケーション |
研究実績の概要 |
本年度は戦後日本の被災地や公害・開発の跡地における環境・地域再生の通史的事例調査・分析を各自進めた。同時に、事例の国際比較によって分析視角と理論枠組みをより深く議論するため、ゲストスピーカーを招き環境正義に関する国際ワークショップを行った。核開発跡地の環境再生と環境ジェントリフィケーションに直面する米国先住民の事例、原子力発電所開発後および核廃棄物処理場の地域再生に関する台湾の事例から、「正義」「再生」「社会的包摂」について、これらの概念と結ばれている現象、意味・価値付け、規範、社会実践について検討した。 また、各自の事例研究について研究会を開き、国際ワークショップの成果と併せて、次年度以降の課題の整理を行った。 (1)日本の公害および開発跡地において「正義」や「再生」という言葉が「使われてこなかった」文脈、これらの言葉が内包する文脈と現場との緊張関係、同時に人びとによって用いられてきた異なる語彙群の所在が明らかになった。次年度は具体的に複数の意味と文脈、およびそれらの相互連関と緊張関係の分析に移る。そのためには、公害被害者・支援者たち、巨大開発跡地における生活者らの生活実践と言説の分析と同時に、戦後の法制度上における公害対策の中の環境・地域再生と関連政策における語彙群の分析(農林水産業など第1次産業内の、あるいは他産業への配置転換政策などの補償政策を中心に)を行い、連関させて分析する必要があることが明らかになった。 (2)災害・公害・開発跡地の再生に加えて、自然保護・緑地創造においても新自由主義型の資本空間再編が進んでいることが明らかになった。「災害資本主義」と指摘される現象とあわせて、資本と金融のフローが生み出す「再生」の新しいモードについて、既存研究とのすりあわせから、持続可能性、レジリエンス、気候変動などに対応した政策と市場形成も含めて議論する必要性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体はおおむね順調に進展している。 (1)戦後日本の被災地・跡地における環境・地域再生の政策通史形成については、以下の4点のうち、前半の2点について進展させることができている。①本年度は戦後の法制度上における公害対策の中の環境・地域再生と関連政策に関して、戦後の災害、公害、開発に対する補償政策に関する検討を行った。特に、産業転換と地域社会へどのような具体的な施策がなされてきたのか、水産分野に絞って研究を進めた。研究計画では初年度に農林水産分野を同時並行的に研究する予定でいたが、初年度を水産分野対象に絞ることで、縦割り行政、各分野内での知識・人材の専門化によって農林水産分野に共通する問題が個別かつ互いに疎外された問題へ転じる様子などを見いだすことができた。同時に、②戦後の第一次産業振興策(農林水産省資料)と公害対策の接点の整理(1960~1995)の大まかな見通しをつけることができた。③災害復興政策の中の環境・地域再生の整理および、④自然保護・生物多様性政策における環境・地域再生の整理については次年度以降の課題となる。 (2)環境・地域再生に関する事例研究については、計画されていた事例研究よりも対象とする事例を増やし、その中での社会実験的取り組みの可能性を探究しながら各事例ごとの研究課題を進めることができている。他方、今年度は、再生可能エネルギーをめぐる社会実験について、①国内外の先行事例を参照しながら跡地開発・再生事業が新たな不正義や格差の広がりや固定を招かない仕組みをどう考えるか、②そのような仕組みをつくる上で重要なプロセスと要素とは具体的に何を指すか、についてはあまり進まなかった。本年度に得た国際的人的ネットワークを生かし、特にこの2点について、国内外の事例を参照しながら、再生、正義などの概念整理と共に来年度は研究の進展を図る。
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今後の研究の推進方策 |
(1)戦後日本の被災地・跡地における環境・地域再生の政策通史形成について 今年度の成果を踏まえて、水産分野から広げて戦後の第一次産業振興策(農林水産省資料)と公害対策の接点の整理(1960~1995)を行う。また災害復興政策の中の環境・地域再生と自然保護・生物多様性政策における環境・地域再生について、各事例分析と往復しながら、政策通史の形成を図る。 (2)環境・地域再生に関する事例研究では、社会実験を念頭におきつつ、主に(1)の政策通史と連動しながら、a) 不正義や格差構造、b) 資源利用の履歴から資源空間の持つポテンシャルに関する社会側の認識の変化、c) 社会関係を形成する結節点の変化について各事例の分析を進める。同時に、人間社会および自然の(社会ー生態システム理論について、批判的に参照しながら)ケイパビリティーを涵養する「再生」とは何か、同時に社会的包摂はどのように達成しうるのかについて、先行研究および事例研究分析を通じて議論を進める。 (3)以上を踏まえながら、「正義」「再生」「社会的包摂」について、環境正義および気候正義に関する先行研究をまとめる。同時に、事例分析において今年度に見いだされた、これらの概念や言葉の意味に包含されない、あるいは別の表現でこれまで現場において語られてきた言葉について、その意味、言葉の包摂するものごと、感情、象徴についてそのひだごと描写する。そして環境正義の延長線上にあるのか、あるいは「正義。「再生」「社会的包摂」はどのように再考されうるのかについて理論的探究を進める。
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