研究課題/領域番号 |
18H00961
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
朝倉 富子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任教授 (20259013)
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研究分担者 |
舟木 淳子 福岡女子大学, 人間環境科学研究科, 准教授 (60219079)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 嚥下調整食 / 表面筋電位 / 官能評価 |
研究実績の概要 |
本申請研究では、食品の機能のうち二次機能と言われている嗜好性に着眼し、嗜好性(美味しさ)を客観的に評価する方法を確立し、従来誤嚥防止といった物性のみを研究対象としてきた嚥下調整食の開発に、食品生来のもつ嗜好性要素をどのように組みあわえたら良いのかを模索し、新規嚥下調整食の開発に役立てる。 申請者らは、市販の嚥下調整食品を用いて飲み込み易さを評価する系を構築した。飲み込み易さは主観的な評価であり、これを喉の嚥下筋であるオトガイ舌骨筋の動きを、表面筋電位系を用いて解析し、評価系を構築した。食品を口腔内に入れた時に、舌で感じた味(快・不快)が飲み込み易さに影響を与えると考えられる。本年度は、快・不快の感覚が飲み込み易さにどのように影響を与えるか、またその際、嚥下筋であるオトガイ舌骨筋の応答はどのように変化するかを解析した。予備的に、嗜好とオトガイ舌骨筋の筋電位値に相関があるか否かを、硬水と軟水の比較、濃度の異なるレモン汁で比較し、筋電位値との対応があるか否かを解析した結果、筋電位から得られる電位変化をフーリエ変換し、高周波と周波数域に分けたところ、軟水と硬水で周波性成分に有意に差があること、レモン汁の濃度によって周波数帯に差があることが見出された。これより、基本5味を用いて5段階の濃度の味溶液を作製し、各濃度に対する嗜好性および飲み込み易さと、筋電位値を対応させたところ、味別にその応答性が異なることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5味の5段階溶液を用いて、それらの溶液を飲み込むときの筋電位を測定した。数名の予備パネルを用いて解析した結果から、嗜好性が異なる濃度域を5段階設定した。各濃度の溶液について官能評価によって飲み込み易さと嗜好を評価した。パネルとしては女子大学生41名に協力をお願いした。パネルが各溶液7.5mlを嚥下する際のオトガイ舌骨筋の筋電図を表面筋電位計P-EMG plusを用いて測定した。官能評価による嗜好の評価と筋電位測定パラメーターについてピアソンの積率相関係数を求めることで相関性を検討した。基本呈味質の5味について、嗜好・忌避濃度が含まれる5段階の濃度水準を設定した。設定した濃度水準を用いて41名のパネルで官能評価を行い、クラスター分析を実施した結果、嗜好の説明力が高い(R2 > 0.89)13のクラスターに分けることができた。各クラスターから抽出した 約半数の代表者に筋電位測定を行い、ピアソンの積率相関係数を算出した結果、いくつかの呈味質において、嗜好の官能値と筋電位値に相関がみられた。このことより、味覚に対する嗜好性はオトガイ舌骨筋の応答に関与している可能性が示された。本年度は、嗜好または飲みこみやすさを目的変数、表面筋電図測定パラメーターを説明変数としてPLS回帰分析を適用し、「嗜好」、「飲みこみやすさ」の予測モデルを構築した。表面筋電図測定パラメーターは時間因子、周波数因子、量的因子の3因子に分類される14個の表面筋電図測定パラメーターを設定した。予測モデルの精度判定を決定係数R2値及び誤差の標準偏差RMSE値で行った結果、いずれも高い予測精度を示した。苦味では、嗜好・飲みこみやすさともに、共通の時間因子と量的因子で予測でき、予測式の係数も概ね一致していた。一方、苦味以外の呈味質では同じ呈味質でも嗜好と飲みこみやすさの予測モデルは異なった。
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今後の研究の推進方策 |
嗜好、飲み込み易さ、筋電位の対応関係を解析し、味覚嗜好性と、嚥下の難易度について明らかにすることが出来た。この成果は、官能評価による結果だけではなく生体応答という新しい視点からヒトの感性を評価する道筋が出来たと考えられる。次年度は、物性の異なる多糖類ゲルを用いて官能評価による嚥下の難易度の評価、表面筋電位によるオトガイ舌骨筋の動き、動的粘弾性によるゲルの物性測定を対応させる指標づくりを行う予定である。
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