研究課題/領域番号 |
18H00963
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
河野 芳海 静岡大学, 工学部, 准教授 (50334959)
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研究分担者 |
福原 長寿 静岡大学, 工学部, 教授 (30199260)
冨田 靖正 静岡大学, 工学部, 准教授 (50303532)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 天然色素 / 無機層状化合物 / インターカレーション / 有機無機複合材料 / 色調制御 / 物理混合 / 固相反応 |
研究実績の概要 |
研究実施計画に従い,カロテノイド系色素の複合化方法の最適化を検討した。粘土モンモリロナイトの層間をあらかじめ界面活性剤分子で有機修飾しておくことにより,色素分子と粘土層間空間との親和性が著しく向上する。この効果を活かして,色素を溶剤に溶解することなく,有機修飾粘土粉末と色素粉末を物理混合するだけで複合体の調製が可能であることを改めて確認した。ただし,この場合は複合化の効率が低く,長時間の物理混合を要するため,その間の色素の分解を抑制することが課題であった。これに関して,βカロテン粉末にごくわずかな有機溶剤を含ませることで,完全にドライな状態での物理混合よりも圧倒的に速い速度で,層間への色素分子の複合化が進むことを見出した。用いる溶剤はβカロテンの良溶媒よりも,むしろ溶解性の低い溶媒のほうが複合化効果が高いことを確認し,最適な添加溶媒の選択の条件を確立した。 βカロテン以外の,末端置換基の異なる種々のカロテノイドについても,酸との相互作用による青色化と,有機修飾粘土層間への固定化による安定性向上が可能であることを見出した。カロテノイドの種類により分子の疎水性が異なるため,複合化する有機修飾粘土の最適な組み合わせが異なることを示した。 βカロテンに予め酸を作用させてプロトン化し青色化してから,カチオン交換性粘土の層間に色素分子を取り込むことは,困難ながら実現可能性の兆候を得ていた。さらに検討を進めた結果,用いる有機酸の種類と複合化条件を工夫することで,粘土の層状構造を破壊することなく,強酸の作用下で青色化したβカロテン分子を直接,層間に取り込める技術を確立した。層間に固定化された青色化βカロテンは大幅な安定性向上効果を示し,実用的な色材への応用可能性を広げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
疎水性色素であるβカロテンと,有機修飾粘土の疎水空間との親和性を活用した,高効率での色素/粘土複合体の作製技術の確立に成功した。これは,色素分子と無機材料との複合体形成の際に問題となっていた,複合化プロセス中での色素の分解喪失を防げる手法となる。いっぽう,粘土層間の有機修飾を要しない,直接の色素分子の粘土層間への複合化も可能とした。これも,簡便な複合体形成方法に直結する重要な知見である。また,青色化して無機材料と複合化できるのは,カロテノイド系色素一般の性質であり,複合化条件を最適化すれば種々の色素に応用可能な技術であることも明らかとした。以上のように,当該年度の研究実績はおおむね当初の計画に沿ったものである。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画に従い,天然色素・無機材料複合体に対する安定化剤の添加効果を調査する。 現時点で,粘土などの無機層状化合物との複合化により,天然色素の色調維持力は向上することがわかったが,可視光照射下や加熱下では,色素の分解反応の進行による退色がまだ見られる。これを抑制するため,安定化剤を添加することの効果を調べる。安定化剤としては,プラスチック等の安定性向上に効果があるとして実用されている,フェノール系化合物やヒンダードアミンなどの化合物を試用する。構造の異なるいくつかの化合物を比較し,色素の安定性向上に最も資する系列の物質を明確にする。安定性向上の対象とする複合体は,青色化βカロテンとカチオン交換性粘土との複合体のほか,疎水性・親水性など性質の異なる種々の天然色素や,層状構造以外の無機ホストとの複合体についても安定化剤の効果を検証する。これによって,安定化剤が最も効率よく作用する色素複合体を明らかとし,その際の色素と安定化剤分子との相互作用を解明する。 以上の研究推進方針により,安定化剤による複合体の安定性向上効果を最大限に利用できるようにすることで,複合体中の色素の劣化を実用レベルにまで抑制する見通しを立てうるものと想定する。
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