研究課題/領域番号 |
18H00971
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
二井 仁美 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (50221974)
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研究分担者 |
石原 剛志 静岡大学, 教育学部, 教授 (10340043)
家村 昭矩 函館短期大学, 保育学科, 教授(移行) (10412876)
松浦 直己 三重大学, 教育学部, 教授 (20452518)
阿久津 美紀 目白大学, 人間学部, 助教 (50823449)
山崎 由可里 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60322210)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 家庭学校 / 教護院 / 留岡幸助 / 留岡清男 / 今井新太郎 / 成田勝郎 / 教育治療 |
研究実績の概要 |
北海道家庭学校を事例として教護院退所者の軌跡とその在籍中の教護院の様態を明らかにするため、以下のことを行った。 ① 戦後、北海道家庭学校において、寮運営を担った8組の夫婦職員に対する聞き取り調査を行い、留岡清男校長時代から谷昌恒校長時代にかけての教護教育の様態を冊子に纏めた(家村2020)。② 北海道家庭学校所蔵の未整理書簡群の目録作成を進め、全体の9割以上の書簡について概要入力を終えた。③ 東京家庭学校が所蔵する家庭学校理事会等関係文書を撮影したマイクロフィルムをデジタル変換すると共に、北海道家庭学校が所蔵する同校公文書および理事会関係文書の影印本を作成した。④ 退所者に関する匿名記号化記録に奥田カード記載情報の必要部分を追加入力する作業を依頼した。⑤ 研究会を開催し研究分担者および研究協力者等の研究の進捗状況を確認し今後の作業計画について協議すると共に、各種学会・研究会等において研究報告を行った。 如上を通して、とくに、1939年に家庭学校長に就任し、戦時下から終戦、戦後の児童福祉法制下において、家庭学校の運営の中心にあった今井新太郎の思想と実践についての検討が重要であることを確認した。彼は、家庭学校の本校が高井戸(杉並区)に移転した後に家庭学校長となり、社名淵分校が北海道家庭学校として本校から独立する1968まで、家庭学校長であった。家庭学校校開設以来50年の生徒1,286名(巣鴨25年507名、茅ケ崎10年119名、社名淵34年436名、高井戸9年234名)に関する入校者数、卒業者数、事故・不結果数等の調査、成田勝郎による「教育治療」の採用と実施、それらと留岡清男、奥田三郎による家庭学校社名淵分校(北海道家庭学校)における予後指導調査との関係について検討することが、今後、取り組むべき課題であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①東京家庭学校が所蔵する家庭学校理事会議事録や同関係文書等を撮影したマイクロフィルムをデジタル変換、北海道家庭学校が所蔵する同校公文書および理事会関係文書の影印本化等、本研究において必要な史料調査が進んだ。②研究分担者家村昭矩によって行われた、戦後の北海道家庭学校において寮運営・教護教育を担った8組の夫婦職員に対する聞き取り調査の記録を冊子にすることができた。③北海道家庭学校史の検討において、これまでほとんど分析対象にされたことがなかった今井新太郎を再検証する必要があることが認識されたことは、本研究全体の計画の進捗において重要なステップである。とくに、今井の著書や記録等の検討を通して、家庭学校校開設以来50年の生徒1,286名の予後を含めた統計の存在が明らかとなったことは今後の研究において意味のある発見であった。④ ヨーロッパ児童青年精神医学会(ESCAP Vienna 2019 congress)において、日本の教護院・児童自立支援施設における教育の様態について報告し、また少年非行に関する国際的な研究動向を理解することを通して、本研究における分析に参考となる知見を得た。これらは、本研究の進捗状況が順調であることを示すものである。 なお、北海道家庭学校において、家庭学校社名淵分校および北海道家庭学校旧職員や旧職員家族、支援者、卒業生等、関係者に関わる記録や書簡調査を継続的に進めてきたが、新型コロナウィルスの感染拡大防止のための緊急事態宣言を受け、年度末に予定されていた現地調査は中止せざるを得なかった。その結果、北海道家庭学校所蔵書簡中、本研究の対象とすべき書簡の概要目録作成は、完成には至らず、約5%程度の書簡について未整理状態に留まり、また、奥田三郎による調査資料についての整理・入力も次年度の作業として残すところがあった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、北海道家庭学校を事例として教護院退所者の軌跡とその在籍中の教護院の様態を明らかにすることを通して、教護院の存在意義を考察しようとするものである。今後の研究の推進方策としては、以下の通りである。最初に、新型コロナウィルスの感染拡大予防のために中止せざるを得なかった今年度の残した課題に取り組みつつ、研究目的の達成のための作業を継続する。具体的には以下のことを行う。 ① 本研究が対象とすべき北海道家庭学校未整理書簡の概要目録の完成、②今年度、予算上の制約でできなかった東京家庭学校所蔵の家庭学校関係文書(マイクロフィルム版)のデジタル変換とその必要文書の影印本化、北海道家庭学校が所蔵する関係文書のデジタル撮影と影印本化等、本研究において必要な資料渉猟を継続する。③谷昌恒校長時代の北海道家庭学校において寮運営・教護教育を担った夫婦職員に対する聞き取り調査の記録を冊子化する。④ 奥田三郎関係資料の整理・入力作業、⑤『ひとむれ』『はくよう』、奥田カードや他調査による収集データに基づく予後状況の分析、⑥今井新太郎校長時代における家庭学校本校と社名淵分校(北海道家庭学校)間の関係性の分析、⑦教護院50年の様態に関する北海道の児童福祉行政と教護院の関係に関する資料収集とその分析、⑧教護教育関係文献および北海道家庭学校関係資料の分析による時期区分の再検討、⑨北海道家庭学校関係記録の検討を通しての予後指導対象者の在籍時代における学校の経営状態、教育や生活、寮や作業班での様態の解明、⑩北海道家庭学校の退所者の軌跡とその在籍時代における学校の様態の変化、戦後日本における教護院出身者の進路、教護院在籍児童における障害児の問題、国際的な非行少年処遇の変化等に関する中間研究報告とその検討会を行い、最終研究報告書作成のための骨子を作る。
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