研究実績の概要 |
2022年度は、コロナ禍前までに関東近郊の自治体にある認可保育所を対象に収集した、保育環境評価スケール(Early Childhood Environment Rating Scale, 3rd edition; Harmsら著,埋橋玲子訳,法律文化社)を用いた保育の質評価に関するデータを用いた分析結果を内閣府経済社会研究所ディスカッションペーパーにて発表した。具体的には、(1) 保育の質のスコアには施設間でばらつきがあり、同じ施設内でもクラスや年度によってスコアにばらつきがみられること、(2)特別な介入をしなかったにもかかわらず、徐々に質の向上(スコアの上昇)がみられたことなどを報告し、保育の質を定量的に評価することによって、各施設でおこなわれている実践における強みと課題を明らかにし、保育の質の確保と向上を検証できることなどを論じた。 また、就学前後に子どもが経験する家庭内外の環境の質が子どもの適応的な就学移行に影響するプロセスを明らかにする一助として、上記自治体とは別の自治体が有する長期にわたる複数の行政記録情報を用いて分析し、結果を発達心理学研究にて発表した。具体的には、(1)就学前から就学後にかけて長く家庭の経済的困難を経験する児童がいること、(2)家庭の経済的リスクと自身の健康上のリスクという、リスクが重複する児童がいること、(3)法定健診である3歳児健診が未受診となっている場合に、家庭の経済的リスクのある確率が高いということ、(4) 就学前に存在した家庭の経済リスク・健康上のリスク・健診未受診リスクは就学後の学力と負の関連があるということを報告し、行政が把握しているさまざまなデータを結合して分析することで、リスク要因と発達アウトカムとの関係を明らかにできる可能性などについて論じた。
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