研究課題/領域番号 |
18H01004
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
今野 日出晴 岩手大学, 教育学部, 教授 (10380213)
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研究分担者 |
外池 智 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (20323230)
二宮 衆一 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (20398043)
河西 英通 広島大学, 文学研究科, 教授 (40177712)
土屋 明広 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (50363304)
小瑶 史朗 弘前大学, 教育学部, 准教授 (50574331)
伊藤 大介 東北大学, 学術資源研究公開センター, 協力研究員 (70400439)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 歴史教育 / 歴史認識 / 歴史実践 / 歴史家のように読む / 東北 / 和解 / 軍事郵便 / 花岡事件 |
研究実績の概要 |
本研究は社会科教育研究者の主導のもと、日中の研究者の学際的な協働によって、開発・提案した歴史教育プログラムを実践し、自省的な「歴史認識」を育成のための方策を明らかにすることを目的としている。北上平和記念展示館(岩手県北上市)に所蔵された「7000通の軍事郵便」を対象に、その読解の方法に焦点をあわせるものである。 本年度は、社会科教育研究者(今野・外池・小瑶)を中心に、9月に「東北アジア歴史認識研究会」をもち、このプロジェクトの目的と全体構想を確認しながら、農民兵士の戦争体験に焦点をあわせた歴史教育プログラムに関して、「軍事郵便」に関連する授業実践を構想し、その有効性に関して意見交換をおこなった。 また、それぞれの研究分担に関わって、今野は、新設科目「歴史総合」に関して、その目的や内容を軸に検討を加え、「歴史家のように読む」アプローチが「歴史的思考」を育成し得るものとして、具体的な史資料(「火中の栗」)をもとに、時代の文脈を読み解くことを試みた。外池は、広島市の「被爆体験伝承者」、長崎市「交流証言者」の講話を対象に、戦争体験の「語り」が継承されていく意味を探り、小瑶は、「戦後」に照準を定め、中国を含む東アジア諸国との和解に向けた学習内容のあり方を検討し、土屋は、「花岡和解」の成立プロセスと被害者・遺族たちからの批判を検討し、和解成立には、被害者と加害者による被害体験の共有の必要性を示した。二宮は、中等教育における探究学習の評価のあり方、特に、「主体的・対話的で深い学び」を実現していく方策について研究を進めた。また、河西は、東北の近現代史を日本近現代史全体のなかに位置づけるべく、東北の事例と全国的事例の比較検討を試み、伊藤は、自治体史編纂に関わって、フリーソフトなどを活用して歴史資料のデータ管理を効率的におこなう方法について探究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、スタンフォード大学の歴史教育グループが開発した「歴史家のように読む」アプローチを参照しながら、日本の歴史研究者が具体的な地域の史・資料を読解するときの方法や視点を軸にして、具体的な歴史教育プログラムを開発・実践することを目指したものである。令和元年9月に、社会科教育研究者(今野・外池・小 瑶)によって「東北アジア歴史認識研究会」を開催して、日露戦争前の国際情勢を示した「火中の栗」(『中央新聞』)を「歴史家のように読む」ことで、時代の文脈を読み解き、「歴史的思考」を育成し得る可能性を共有できた。こうした方法としての有効性を確認できたことは、今後の「軍事郵便」を素材にした歴史教育プログラムの開発のための基盤をつくることとなった。 また、今野は、北上平和記念展示館所蔵の「7000通の軍事郵便」に関して、川島茂裕(学芸員)の協力を得ながら、軍事郵便のほかにも、当時の紙芝居や教育史料などを調査し、旧藤根村が戦争を担っていくという、政治経済だけでなく、教育・文化としての動員のあり方も探究することができた。「農民兵士」の戦争体験に焦点をあわせて、歴史教育プログラムの開発していくためには、「農民兵士」の意識を明らかにしてくことが必須のものであり、「軍事郵便」が書かれていく/書くことのできる基盤が明らかになった。 以上のことから、研究課題に関して、具体的な視点と方法が明瞭になったことから、研究の進捗状況としては、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまで構想してきた歴史教育プログラムを、具体的に授業実践として組み立て、それぞれの立場と視点から、検討を加えることをめざしている。現在のコロナウィルスの感染状況では、中国の研究者と集まって検討することは難しいが、連絡をとりながら、進捗状況を知らせて調整する。 具体的なプログラムとしては、小学校、中学校での「軍事郵便」を扱った授業を対象として、実践を踏まえて授業検討を加える。ただし、日本の分担研究者を中心として全体研究会「東北アジア歴史認識研究会」の実施時期は、本年度後半を予定しているが、コロナウィルスの感染拡大の状況によっては、翌年に持ち越すことも想定している。 社会科教育グループを中心に構想した歴史教育プログラムを、歴史研究の視点(軍事郵便の史料としての妥当性、内容についての理解、時代の文脈など)から、法社会学の視点(国際法の理解に関わって)から、教育内容に関しての検討をおこない、教育評価の視点からその効果を測定するというかたちで、学際的な方法によって、実現する。 授業実践者も含めて、検討会では、スタンフォード大学の「歴史家のように読む」という視点について重点的に分析し、それとの対比のうえで、日本版の「歴史家のように読む」アプローチを構想し、「歴史的思考」育成のための可能性を検討する。 そして、その検討のうえに修正を施し、授業実践を含めて、フィールドワークなどをも組み込んだ歴史教育プログラムを構想していく。
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