研究課題/領域番号 |
18H01007
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
茂木 一司 群馬大学, 教育学部, 教授 (30145445)
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研究分担者 |
布山 毅 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 教授 (10336654)
伊藤 亜紗 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 准教授 (20701618)
手塚 千尋 東京福祉大学短期大学部, こども学科, 講師 (20708359)
大内 進 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所, その他部局等, 特任研究員 (40321591)
池田 吏志 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (80610922)
廣瀬 浩二郎 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (20342644)
笠原 広一 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (50388188)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インクルーシブアート教育 / 視覚障害 / 美術科教育 / メディア教材 / カリキュラム開発 / プロジェクト学習 / 視覚障害当事者 |
研究実績の概要 |
視覚障害美術教育は古くは盲児の粘土造形実践(福来四郎や西村陽平等)によって、社会的な認知が進み、「触る教育」がその主流とみなされてきたが、近年国連「障害者権利条約」の批准によるインクルーシブな社会への希求が障害者教育全体を後押しし、本領域では美術館の教育普及活動の活発化による「対話型鑑賞」の普及によって、「触らない(鑑賞)教育」の流行があり、これは今視覚障害美術教育の在り方に大きな変化をもたらしている。 本研究は、学校及び継続教育としての学校外の教育として「インクルーシブアート教育」を確立するために、「触る/触らない」「見える/見えない/見えにくい」を超えた、大きな美術教育の理念とそれを具体化するためにカリキュラム・教材開発を進める。 1・2年目の成果は、盲学校(群馬、宮城、筑波大学附属等)の調査からインクルーシブ化が発展途上にあり、視覚特別支援(盲)学校の児童生徒数の減少による蓄積されてきた本分野の教育の専門性の喪失が進みつつある現状を分析した。一方で、1977年からフルインクルージョンを推進するイタリア視覚障害美術教育の調査(2018.9)において、同国が財政を筆頭に様々な問題点を抱えながらも、「共に学び、ともに生きる」共生社会理念の社会的定着化を進め、インクルージョンを普通とする社会マインドをつくり、巨大なウフィッツィ美術館においても予約なしで視覚障害者が美術鑑賞に参加できるシステムを持つなどの組織的なアクセシビリティへの取組の実現を確認した。 この2年間で「見える/見えない/見えにくい」を越境する題材開発を中学校美術科教育から着手し、①現代美術・アートの変容、つまりモノからコト(出来事、コンセプト)へ変わる美術を中学生がどう学ぶのか、②「触る」学習と「触らないことばによる学習」を融合する題材開発、の2点を基本コンセプトとして設定し研究を進め、着実に成果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理論研究である「インクルーシブアート教育システム(アートによるインクルーシブな協同学習論)の基礎理論の構築」(目的I)では、文化庁との共同研究「文化芸術による社会包摂型度の評価手法・ガイドラインの構築」と協同し、アートが共生社会構築の基礎となるべきという理論的枠組みの構築を進めている。研究者、アーティスト、障害当事者/支援者等がプロジェクトの企画段階から関わる参加型評価の導入によって、研究全体がインクルーシブになり、同時に高度化が図られた。 視覚障害児等が共生社会で活躍する主体的学びを実現するメディア教材・カリキュラムの開発・実践(目的II)では、現代美術史のエッセンスの抽出を軸に、モノ(作品)からコト(出来事・コンセプト)へ移行するアートを分析した。20世紀初頭のキュビズムの教材化では、多視点というコンセプトが視覚障害の多感覚との概念的共通性を見いだし、自画像題材・教材を開発した。題材は鑑賞+制作の両方の性質を持つプロジェクト型題材として制作している。 2019年度は、全盲児の色彩教材を開発した。不要論もある分野であり、色彩の場当たり的な指導を避けるために、視覚障害者が日常生活の中で色彩の概念的知識と実用的理解の一致が図れるように、遠回りではあるが、いわゆる三属性や色相環、色立体などの「色彩の基礎理論」の学習に焦点化して教材開発を進めた。制作した教材は、「触れる12色相環(色料)」、「色光の混色教材」と「触る色立体」である。この特徴は配色をするときに補色(反対の色)を触覚で確認できるように配慮し、色選びに役立つように考えたことである。まだ未完成ではあるが、実験対象者にはおおむね好評であった。 研究がやや遅れているのは、実験を学校の授業外で実施し、実験対象者をボランティアで集めているために、思うように実験が進まない現状がある。
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今後の研究の推進方策 |
理論研究「インクルーシブアート教育システム(アートによるインクルーシブな協同学習論)の基礎理論の構築」(目的I)では、「文化芸術による社会包摂型の評価手法・ガイドラインの構築」を障害者施設で行った参加型評価の実践を特別支援学校でも実施し、同教員が自分の学習論構築と学校のスクールマネジメントに活かす方法を探求していきたい。新型コロナウィルス等で中断している海外調査を積極的に進めたい。 視覚障害児等が共生社会で活躍する主体的学びを実現するメディア教材・カリキュラムの開発・実践(目的II)では、モノ(作品)からコト(出来事・コンセプト)へ移行するアート概念の題材・教材開発を進める。触れない、もしくは見えない「アート」が「コンセプト」であることをいかに学習・理解できるのかを中心に、デュシャンのダダやコンセプチュアルアートから、社会問題に切り込む現代アートのプロジェクト、たとえばソーシャルアート全般にまで思考を拡張し、具体化したい。カリキュラム・教材開発はできるだけ視覚障害当事者に直接参加してもらうインクルーシブデザインの手法で行い、「触る/触らない」、つまり触覚とことばを融合し、「見える/見えない/見えにくい」を超えた、理論と実践をつくっていきたい。 また、視覚障害美術教育ではほとんど手つかずの「デザイン・工芸」の学習にもアプローチする。
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