研究課題/領域番号 |
18H01017
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
草場 実 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (00737851)
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研究分担者 |
湯澤 正通 広島大学, 教育学研究科, 教授 (10253238)
北川 晃 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 講師 (90450684)
道法 浩孝 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 教授 (90457408)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メタ認知 / ワーキングメモリ / 観察・実験 / 科学的探究活動 / 動機づけ / 学習方略 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的はメタ認知とワーキングメモリ(WM)に着目し、観察・実験を通した科学的探究活動において、生徒が動機づけや学習方略を制御しながら課題を解決するための指導・支援方略を開発し、その教育的効果について検討することである。その目的の実現に向けて、当該年度(2年目/4年間計画)は、①WM容量と科学的推論能力の関係の分析、②観察・実験に対する興味と学習方略の関係の分析、③科学的探究活動におけるメタ認知測定法の開発、④理科学習に対する動機づけのレビューを中心に検討した。 具体的に、①では、学校現場で実施可能な集団調査用のWM課題、科学的推論能力課題、学習方略尺度を準備した。小学生を対象に調査を行ったところ、深い学習方略の使用が低WM容量のネガティブな影響を緩衝する効果を見いだした。②では、観察・実験に対する興味を「強さ」と「深さ」の2次元で捉える尺度を開発し、学習方略との関係について検討した。中学生を対象に調査を行ったところ、ポジティブ感情と思考活性志向は深い学習方略を促進する一方で、体験志向は抑制することを見いだした。③では、自己評価などのオフラインメソッド法の課題を踏まえ、自己評価だけには依存しないメタ認知の測定法を開発した。科学的探究能力を評価するルーブリックを開発し、それに対する自己評価と他者評価の差分からメタ認知を捉えた。SSH指定校の高校生を対象に調査を行ったところ、自己評価と他者評価の差分はメタ認知を捉える可能性を見いだした。④では、「理科教育学研究」、「科学教育研究」及び「日本教科教育学会誌」に掲載(2013年~2018年)された論文をレビューし、理科教育学研究者や理科教師が、子どもたちの理科に対する動機づけをどのように捉えているのか検討した。その結果、課題価値概念に基づく動機づけ研究は数多く見られる一方で、期待概念に基づく研究は少ないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、①ワーキングメモリ(WM)の測定課題の整備、②理科におけるメタ認知の測定方法の開発、③WM理論に基づく理科授業の開発、④観察・実験を通した科学的探究活動における動機づけや学習方略に関するデータ収集を達成することを目標としていた。①については、学校現場で実施可能な集団調査用のWM課題を作成し、小学生を対象にデータ収集を行うことができた。しかし、視空間性WMについては、学校現場での一斉実施が困難であったため作成には至らなかった。②については、自己評価と他者評価を融合した新しいメタ認知の測定方法を開発し、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校の高校生と指導担当教員を対象にデータ収集を行うことができた。③ついては、物理的領域において3事例の理科授業開発を行う予定であったが1事例の開発に留まった。④については、SSH指定校の高校生を対象に縦断データ収集を行うことができた。また、次年度以降を見据えて、動機づけ論文のレビュー、学級内の人間関係に関するデータ収集、理科に関する新しい心理尺度開発を行うことができた。そして、本研究の遂行によって得られた知識や技能、整備された環境を生かし、初等中等学校教員や大学院生を対象に、教育研究におけるデータ解析に関する知識や技能の習得を目指した公開講座(無料)を企画・運営することができた。 以上より、当初の目標が達成されなかった点がある一方で、当初は目標としていなかったが今後の発展に繋がる研究も遂行することができた。さらには、研究の遂行で得られた知見や環境を生かした社会貢献も行うこともできた。以上の状況を総合的に判断し、当該年度については「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえて、今後は、①メタ認知の測定方法の改良、②科学的探究活動における生徒のメタ認知の調整効果の検討を中心に遂行していく予定である。具体的に、①については、オンライン法によるメタ認知の測定を検討する。これまでに、質問紙(自己報告)を用いたオフライン法では、収束的妥当性や弁別的妥当性に課題があることが示された。現段階では、中学生や高校生を対象として、観察・実験を課題解決の手段として位置づけた科学的探究の文脈を設定し、発話思考法や行動観察法などのオンライン法によるメタ認知測定を試みる。②については、科学的探究活動において、生徒のメタ認知が動機づけや学習方略に及ぼす調整効果について縦断的に検討する。これまでに動機づけや学習方略を測定するための心理測定尺度を整備してきた。今後は、科学的探究活動の文脈に適合した尺度の開発を目指す。現段階では、これまで研究連携してきたスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校の高校生を調査の対象としている。 これらの研究を推進するために、中・高等学校の現職理科教員との連携・協力を図る。特に科学的探究活動に関する調査についてはSSH指定校との連携・協力を図る。また、本研究は様々な心理変数を対象にしており、データ解析に関する高度な知識やスキルが求められる。そのため、理科教育における心理学的研究に明るい研究分担者を追加することにした。なお、これまでの研究成果については著書・学術論文としてまとめ、国内の理科教育関連学会において発表していく予定である。
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