研究課題/領域番号 |
18H01039
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
澤 隆史 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (80272623)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 聴覚障害 / 日本語 / 文法 / 学習教材 |
研究実績の概要 |
平成30年度の研究では、従来、聴覚障害児にとって理解が困難とされている特定の文法項目について、特別支援学校(聴覚障害)の小学部児童を対象とした理解課題を実施しデータを収集するとともにその遂行成績の一部について分析した。本年度は複合動詞の理解について統語的複合動詞と語彙的複合動詞の理解の差異を検討し、統語的知識と意味的知識の両方が理解に影響することが検証された。 また、外国人向けの初級ならびに中級の標準的な日本語文法指導書を参考に、約1,600の文法項目を抽出し、それぞれの文法項目を用いた典型的な例文を作成した。これらの中から、複数の指導書で重複する項目を整理し約700項目に集約した。次に、特別支援学校(聴覚障害)の小学1年生から専攻科学生までの約800編の作文について、各文法項目の使用の有無と使用の正誤を抽出・確認した。分析にあたっては形態素解析ソフトを利用して各項目の使用を抽出した後、当該項目が正確に抽出されたかどうかを、一つひとつの文について確認する作業を行った。分析の結果、いずれの年齢段階においても使用される文法項目の種類は限定的であり、また使用された際の文体や表現が画一的な傾向が認められた。さらに分析対象とした項目が使用された約150,000文を抽出し、文法項目ごとにデータへのタグ付け作業を行った。さらに理科と社会の小学校用教科書に登場する文について、電子データ化の作業を行った。 本年度に実施した研究成果の一部を日本特殊教育学会第56回大会にて発表するとともに、研究論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、文法項目の抽出と聴覚障害児の作文をベースにした各項目の難易度の分析を研究目的とした。本研究では大規模のテキストデータを対象としたため、研究の初動における分析枠組みの設定にやや時間を要した。そのため各項目の難易度設定に対してはさらに詳細な検証を行う必要はあるが、現時点では本年度の目的を概ね達成したと判断できる。並行して行う予定であった小学校教科書の分析については、データ入力作業の進捗がやや遅れたが、80%程度の作業は完了しており、次年度に向けて残りのデータ処理ならびに分析を行う予定である。すでに分析の方法等についてはほぼ確立していることから、今後の作業は円滑に進むものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に分析・検証したデータをもとに、本年度は学習教材の対象とする文法項目の選定と配列を行い、データベース化を進める。データベース化の作業については、平成30年度と同様に研究補助員を雇用して行う予定である。作業については、その後の研究活動が円滑に進むように可能な限り時期を限定して集中的に実施する予定である、さらに平成31(令和元)年度は学習教材のベースとなるソフトウェアの作成に着手する。学習用ソフトウェアの作成に関しては、はじめに正誤判断課題と多肢選択課題を取り上げ、コンピュータ上で作動する試作版を作成し、動作確認をしながら改良を行っていく。また特に難易度の低い文法項目を抽出し、その文法項目の学習教材に使用するイラストなどの視覚的教材についても、試作する予定である。視覚教材については、研究補助員の協力を得るとともに外部業者への委託を考えている。なお平成30年度に実施した研究の成果については、日本特殊教育学会第57回大会等で発表するとともに、研究論文誌を通じて公表する予定である。
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