研究課題/領域番号 |
18H01043
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研究機関 | 日本大学短期大学部 |
研究代表者 |
山口 雄仁 日本大学短期大学部, その他部局等, 教授 (00182428)
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研究分担者 |
藤芳 明生 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (00323212)
鈴木 昌和 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 名誉教授 (20112302)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インクルージョン / デジタル教科書 / バリアフリー / 視覚障害 / 発達性読字障害 |
研究実績の概要 |
本年度は新型コロナウイルス感染症のパンデミックという現代史でこれまで例のない危機的状況の中で,オンライン授業が広く行われるようになった。そこで我々の研究グループでは,オンラインで利用可能なアクセシブル理数系コンテンツを容易に作成できるようにするため,MarkDown+LaTeXの文書をソースとして読み上げ音声の埋め込まれたHTML5コンテンツを出力する機能を開発中のデジタル教科書製作・編集・閲覧ソフトウェアに実装した。 理数系文書のe-born PDF(ワードなどデジタル文書から生成されたPDF)から自動変換で,できる限り正確なアクセシブルEPUB3などに出力するシステムの研究開発に引き続き取り組んだ。e-born PDFでも出版社独自のフォントなど未知のフォントが使われている場合には,OCRを補助的に使う必要があるが,フォントと文字コード毎にグループ化してOCR結果を決定することにより,認識精度を高め,自動変換の実用性を高めることができた。 初等・中等教育の教科書などの複雑なレイアウトの構成要素を分類し,タグ付けしてデータベース化するユーティリティを開発し,多様・複雑なレイアウトを自動解析できるようなシステムを開発する準備を行った。 PDFドキュメントから情報を抽出するソフトウェアの新機能として,PDFファイルをSVG形式に変換する機能の追加を行った。SVG形式への変換においては,PDFドキュメントのそれぞれの要素の正確な位置情報が取得できるように,SVG形式のそれぞれの要素の座標が単一の座標系に基づいたものになるようにした。また,教科書のPDFからレイアウトを自動解析し,それぞれの構成要素を適切な順序に並び替え,属性を決定するソフトウェアの開発も継続し,2次元文脈自由文法の構文解析プログラムの実装を行い,教科書のレイアウトを定義する文法を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は,本課題研究を構成する各研究グループにおいて,開発中のソフトウェアの改良や関連する調査・研究を概要に示した通り概ね順調に実施した。新型コロナウイルス感染症のパンデミックという新たな事態への対応も踏まえ,初等・中等教育におけるオンライン用を含めた多様なデジタル教材をバリアフリー化するオールインワン・システムの研究開発が一層進んだと言える。査読のある論文投稿,オンライン開催されたICCHP2020やCSUN2021など国際会議での成果報告も,研究成果が順調に上がっていることを示している。 海外渡航が不可能となり,海外の研究協力者と対面で研究打ち合わせを行うことはできなかったが,オンラインによる研究打ち合わせを随時実施し,我々が開発している障害者支援技術を諸外国で導入する上でのさまざまな課題について検討を継続した。 本年度は国立情報通信研究機構(NICT)国際交流プログラムの補助金を得て,令和3年2月18日,19日に東京駿河台の日本大学理工学部を配信会場として,the 4th International Workshop on "Digitization and E-Inclusion in Mathematics and Science 2021" (DEIMS2021)をオンライン開催した。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響もあり,過去3回のDEIMSに比べ発表者は少なかったが,基調講演2件(国内1,海外1),一般発表13件(海外9,国内4)の講演があり,本課題研究に関連する話題について,最新動向把握と有意義な意見交換・研究交流を行うことができた。オンライン開催のメリットとして,海外の一般参加者が47名とこれまでのほぼ3倍となり,今後の研究集会でもオンラインと対面を組み合わせたハイブリッドな会議運営を行う必要があるとの心証を得た。
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今後の研究の推進方策 |
現在新型コロナウイルス感染防止のため世界各国でオンラインによる教育が広く行われている。しかし統合教育環境で学ぶ障害生徒・学生は,対面の理数系教育ではある程度確保されていたアクセシビリティがオンラインでは必ずしも確保されないため,晴眼者と同じ十分な理数系教育を受けるのが困難な状況にある。この問題を解決するには,(1)教員が晴眼者用に作成するオンライン教育コンテンツをソースとして,全盲・重度弱視・発達性読み書き障害などそれぞれのニーズに合わせて自動でバリアフリー化する技術,(2)受講生徒・学生がオンライン環境で数式などの入力を必要とする理数系課題に取り組むのを支援する技術,(3)現在教育現場で広く利用されているLMS (Learning Management System)でそれらの支援技術が円滑に利用できるようにするための技術など,そうした障害のある生徒・学生のオンライン理数系教育を総合的に支援するための研究開発が緊急に必要である。さらにこうした支援技術は発展途上国をはじめとする日本以外の諸国でも現在広く切実に必要とされているため,各国のユーザーがそれぞれの言語用に自分で容易にカスタマイズできる多言語対応のシステム開発が求められる。 我々が本課題研究で開発に取り組んでいるソフトウェアはこの問題に取り組むための有力な手段となりうるが,残念ながらこれまでの研究体制では課題すべてに取り組むのは困難である。そのため,新たに分担者を加えて研究組織を拡充し,「国際的視点でオンライン理数系統合教育環境をバリアフリー化するシステムの研究」として新規に科学研究費補助金を申請した。幸いこの課題研究は採択になったため,来年度からはこの新規課題に取り組む。
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