研究課題/領域番号 |
18H01071
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
藤岡 達也 滋賀大学, 教職大学院, 教授 (10311466)
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研究分担者 |
桜井 愛子 東洋英和女学院大学, 国際社会学部, 教授 (00636003)
大辻 永 東洋大学, 理工学部, 教授 (20272099)
五十嵐 素子 北海学園大学, 法学部, 教授 (70413292)
村田 守 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 特命教授 (80239532)
榊原 保志 信州大学, 教育学部, 特任教授 (90273060)
佐藤 健 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (90290692)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 防災・減災教育 / 復興教育 / ESD(持続可能な開発のための教育) / 科学技術社会相互関連 |
研究実績の概要 |
日本の自然災害に関する防災教育の現状と課題を明確にし,国内の一般性と特殊性を考慮した防災教育スタンダードを示すため,以下のような取組を行なった。近年日本列島で発生した,地震・津波災害,火山災害,気象災害,斜面災害等,それらに対する科学技術や社会の対応,学校教育での関連する知識・理解の取り扱い,理科・地学教育等,教育課程の中での位置付けられ方等を調査し,体系的に整理した。特に近年の理科教育での自然災害の取扱いの現状と課題を,これまでは,第二次世界大戦以降阪神淡路大震災まで整理していたが,本年度は平成期間に発生した自然災害と学習指導要領改訂等から捉え,理科教育への影響と限界を明らかにした。重視したのは,日本の自然災害を含む地学的自然の多面的な取り扱い,特に,科学を基本としたESDの展開,例えば,環境教育,エネルギー教育,気候変動等と関連した自然災害及び防災・減災を取り上げた。そのことによって,様々な観点から科学的リテラシーを育成する機会を明示した。普遍性と共に,日本列島各地の実情に応じ,地域と連携しながら,学校を防災教育拠点としてハード面,ソフト面の両面から整備する観点を明確にし,日本の学校防災・減災のスタンダードを構築した。 次にESD及びSTSを重視した防災・減災教育の内容・方法・教員研修等のシステムを構築した。ESDと防災教育を理論づけて研究されている例は,少なく,その方面の確立を行なった。具体的には,自然災害に対する防災・減災,復興教育,自然災害とも関連して発生,拡大する事故として,福島第一原子力発電所事故等の分析を小学校段階から教育開発を行うために,まず教員研修プログラムを作成し,その実践を行った。さらに国際社会と防災,減災の知識・技能を共有し,共通性・差異を意識した教育内容・方法・システム等を構築するための台湾,韓国,タイ等の調査を行ない今後の方向性を明確にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
想定外の自然現象によって生じる複合災害に関して新たな視点からの国内の教員研修を示すことができた。東日本大震災の被災地域だけでなく,近年,大きな自然災害が発生した地域での教育開発プログラムを作成し,鳥取県,新潟県,長野県などで,学校教員を対象として実践・評価を行った。さらに東日本大震災以降,福島第一原子力発電所事故は取扱う必然性が強く生じたが,小学校教員にとっては困難なことが多かった。そのために教員研修プログラムの開発によって,UPZ圏内の学校等における実践方法を検討した。 また,当初の計画どおり,近年の自然災害の発生とその対応が学校教育にどのように影響を与えたかについて,平成の約30年間を事例として,教育史の観点からも整理することができた。これまでの研究において,第二次世界大戦後の日本の教育界の変遷と自然災害に関する教育の動向を整理していたが,自然災害を教育の視点から取扱うことの必要性が「生きる力」の育成と連動して,一層その重要性が明らかになった。このことは,近年の学習指導要領の変遷を発生した自然災害の対応から分析・考察することが可能であった。 国内外の文献調査からも日本でのこの領域は海外での研究と比べても進んでおり,ESD等と連動して,日本から世界に発信する価値が明確になった。そこで,海外での現地調査を踏まえたうえで,実践を行うことの意義,その具体的な内容,方法が明確になりつつある。 海外の実践研究や現地調査は十分に行うことはできなかったが,台湾はじめ日本と同じような災害が発生する可能性のある地域での学校教育に留まらない学校から社会への発信を調査することができた。
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今後の研究の推進方策 |
仙台防災枠組2015-2030に則って,日本の防災・減災,復興教育など自然災害に関する教育をアジア等で実施する方法として,SDGsの意義があることが考えられた。日本だけでなく,国際的にも日本の取組が貢献できるようなシステムを継続して構築する。特に,巨大地震や大津波は,インド・スマトラ沖地震・津波,東日本大震災とも共通性が見られ,伝承を教材開発に活かす必要性が明らかになった。また,海外では自然災害を地理学的な視点から捉えられているが,その地域の地質,岩石,地史,地殻変動など,日本の地学的な特性を科学教育に位置づけて発信することの重要性が明らかになった。同時に自然災害に関する防災・減災,復興についての教育は学校教育だけで完結するのでなく,保護者や地域とも連携・協力した取組が必要であることが学校教育の限界,児童生徒の日常生活から不可欠であることが明確になった。ただ,教育体系を構築するためには,従来の教科枠組をどう拡大するか,教科での教育目標と学校安全を構成する安全教育・安全管理・組織活動などの様々な教育活動とどのように連動させるのか,新たな教育システムの構築の必要性が明確になった。加えて,教育行政や学校管理職はじめ教職員への十分な知識・技能を供給する機会としての教員研修の必要性,さらには,この領域の教材が不足していることも明らかになった。そのため,SDGsやESDの内容を踏まえたカリキュラム・マネジメントによる具体的な教育活動の内容や方法を開発し,実践を通して,その意義を示す必要があることが確認できた。国内においては,新学習指導要領の実施が小学校から順次展開されることになっている。改訂の趣旨を踏まえた「生きる力」の育成と連動した取組によって,教育現場にも波及効果を検討する。
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