研究実績の概要 |
本年度の当初の予定は,男子性犯罪受刑に対する性犯罪防止プログラムの処遇密度と受刑者のタイプ(具体的には,性犯罪の手口による類型,幼児わいせつ,痴漢,その他)が,その後の再犯にどのような影響を与えるかに関して,国内外の学会において専門家と意見交換し,最終的な数理モデルを構築することであった。 しかしながら,コロナ禍の影響により,国際学会には出席できず,国内の学会はwebによる開催となり,十分な意見交換ができなかった。 そこで,論文を公表して,専門家との意見交換を行うこととした。数理モデルの基礎となる確認事項は,(1)逸脱行動はいつくかの質的に異なる(heterogeneous)類型に分けられること,(2)性犯罪の手口による類型によって再犯防止の介入効果が異なること,の2点である。 これらを実証的に確認するための基礎的研究として,以下の2つの研究を行い,論文化した。すなわち,①男子性犯罪受刑者以外の集団,具体的には大学生でも(1)が妥当であるか,②(男子性犯罪受刑者に対する処遇方法の変更は現段階では難しいので)触法知的障碍者を対象として,幼児わいせつと関連性が強いと言われている前頭葉の意思決定機能の障害を有する者と,そうでない者に対して,認知行動療法の逸脱行動抑止効果が異なるか,である。 これらの研究の結果,①大学生の逸脱行動にも質的に異なる類型が認められた,②触法知的障碍者でも,前頭葉の意思決定機能の違い及び処遇密度の違いによって(性犯罪防止プログラムで用いられている)認知行動療法の効果が異なることが認められた。 以上から,性犯罪の手口の類型(幼児わいせつか否か)によって認知行動療法の再犯抑止効果が異なるという結果が,男子性犯罪受刑者以外の集団にも,また,性犯罪防止プログラム以外の認知行動療法にも,一般化できる可能性が示唆され,数理モデルの頑健さが示された。
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