研究代表者らの先行研究では、右下頭頂小葉と呼ばれる脳領域に刺激の呈示時間の長さ(継続時間)に対して感度を持つニューロン群が存在する可能性が示された。しかしながら、実環境で我々が経験する時間長は、「単一イベントの継続時間」として経験する場合もあれば、光の瞬きのように「複数イベントの時間間隔」として経験する場合もある。そこで当該年度の研究では、継続時間と時間間隔の脳内表現が共通かを明らかにするため心理物理実験を行った。
本研究では、先行研究で用いられた時間長への順応を利用した実験パラダイムを一貫して用いた。単一イベントとして刺激を継続的に呈示することにより時間情報を与える刺激と、2つの短いイベントの時間間隔によって時間情報を与える刺激を組み合わせ、順応刺激およびテスト刺激のどちらも同じタイプの刺激の場合、あるいは一方のタイプを順応刺激、もう一方のタイプをテスト刺激とした計4つの組み合わせで実験を行い、順応の結果としてテスト刺激の主観的時間の伸縮(陰性残効)が現れるかを調べた。順応刺激として、テスト刺激のレンジよりもやや短い刺激、あるいはやや長い刺激の2種類を用いた。実験の結果、陰性残効は同じタイプの刺激を順応刺激およびテスト刺激として用いた場合のみに現れる事がわかった。これまでは継続時間刺激を順応刺激およびテスト刺激として用いた場合に陰性残効が見られることは知られていたが、今回の実験によって時間間隔刺激を順応刺激およびテスト刺激とした際にも陰性残効が現れることが明らかになった。このことから、時間間隔についても、継続時間の場合と同様に集団コーディングによる時間表現が脳内に存在する可能性が示された。一方、異順応刺激とテスト刺激で異なるタイプの時間情報を与えた場合には時間残効が現れなかったことから、継続時間と時間間隔を表現するニューロン群は独立である可能性が示唆された。
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