研究課題/領域番号 |
18H01104
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
渡辺 茂 慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (30051907)
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研究分担者 |
塚本 勝巳 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (10090474)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 空間認知 / 大規模回遊 / ウナギ / 神経機構 |
研究実績の概要 |
本研究は大規模回遊を行うウナギの空間認知の脳内機構を明らかにすることを目的とする。初年度では、実験室レベルでの空間認知実験方法の確立を第一の目的とした。げっ歯類で用いられるモリス型迷路と機能的に等価なウナギ用迷路を開発し、この装置により、ウナギに空間位置学習を訓練することが可能になった。さらに、装置の回転、暗室実験により、この学習が迷路外の視覚情報に基づいていることを明らかにした。また、ウナギの空間移動行動をトラッキングを用いて解析することにも成功し、ここでも視覚情報が重要であることが確認された。半野外実験である、実験池でのウナギ行動の解析については、宮崎県の国際ウナギラボの実験池を視察し、どのような実験が可能であるかを研究分担者、研究協力者と協議した。さらに野外研究についてはウナギが河川から海に移動する時期に、眼球が大きくなるという指摘があった。このことは大規模回遊においても実験室での行動と同様に視覚情報が使われていることを示唆する。そこで、眼球の大きさの変化ー視細胞の増大ー神経節細胞の増加ー視神経の増大ー中脳視蓋の大きさ変化、という仮説をたてた。そのための視神経の染色に種々の方法を試みたが、鉄ミョウバンとヘマトシキリンを用いるBenda-Spielmaiyer法が成績がよかったので、その変法を考案し、安定して視神経ミエリンを染色することに成功した。これを用いて、眼径と視神経の太さの計測を行い、その間に相関関係があるという知見をえた。現在はこれらの組織の顕微観察を行うとともに、各種指標のデータベース作成に取り組んでいる。 初年度のキックオフ・シンポジウム、年度末の成果報告会を開催した。さらに隔月で「鰻脳ニュース」という電子版のニュースレターを発行し、情報交換と一般に向けての情報発信を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験室での実験方法の確立は予定通りであるが、空間行動における視覚情報の重要性が実験室と野外で同じように示唆されたのは予想外の成果であり、それに基づいて神経、脳の定量的研究に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
実験室レベルの研究としては空間認知における1)嗅覚剥奪、2)側線入力剥奪、の効果を調べ、それに基づいて脳損傷を決定し、空間認知を実行する脳内部位を同定する。さらにパターン認知の実験も行い、学習課題x損傷部位の二重乖離を試みる。同様に実験池においても、感覚剥奪と脳損傷の効果を調べ、実験室でのデータと擦り合せる。野外研究では河川滞在型と海への移動型のサンプルを入手し、その感覚器、脳を検索し、回遊に向けての神経構造の変化を探る。また、行動トラッキングの手法を改善し、異なる種のウナギでの空間行動の違いを突き止める。最終的には、実験室レベル、半野外レベル、野外レベルでの成果を統合して、大回遊の機構を統一的に理解する。
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