本研究は大規模回遊を行うウナギの空間認知の脳内機構を明らかにすることを目的とする。まず、モリス型迷路と機能的に等価なウナギ用迷路を開発し、空間位置学習実験を行った。ついで、迷路外手がかりと迷路内手がかりがある状態で訓練を行い、弁別刺激の選択を明らかにした。さらに、脳損傷実験を行い、大脳損傷が空間認知を障害すること、また大脳外套の内側部と外側部で機能が異なることを線形モデルの分析で突き止めた。本年度は水流を弁別刺激とする空間学習の実験を行い、従来の視覚刺激による学習と同様に水流刺激による空間学習が可能であることを示した。水流弁別は側線器官を介していると考えられるので、ストレプトマイシン投与による側線有毛細胞損傷を行い、この操作によって水流弁別ができなくなることを明らかにした。また、ウナギの空間運動をトラッキングによって解析し、ストレプトマイシン投与によって空間運動が阻害されるという知見を得た。宮崎県の国際ウナギラボの実験池では外科的に網膜除去による視覚剥奪、嗅覚板損傷による嗅覚剥奪を行い、行動変容を分析した。さらに脳の形態変化を調べる為に脳部位の大きさを推定する方法を考案し、主成分分析によって黄ウナギと銀ウナギで脳部位の相対的大きさが異なることを示した。さらに、ウナギと系統発生的に離れており、かつ空間学習が報告されているハゼ脳との比較を行なっている。さらに、隔月で「鰻脳ニュース」という電子版のニュースレターを発行し、情報交換と一般社会に向けての情報発信を行った。
|