本研究は、運動行為がどのように知覚を規定し、知覚がどのように運動を規定するのかを調査するものである。本年度は、運動行為が知覚の不確実性に依存して記憶されるという全く新たな現象を発見した。 本研究では、被験者は力場のかかったマニピュランダムの操作(力場リーチング運動:手の筋の活動パターン)を学習した。手運動は先行するランダムドットモーション刺激方向を判断し、その方向へ行った。延べ100人を超える被験者の参加した3つの本実験、および2つの統制実験の結果、先行する視覚刺激の不確実性に応じて異なる力場を学習できること、さらには運動記憶に紐づく文脈は視覚刺激の不確実性でなく、意思決定の不確実性であることが明らかとなった。これは、曖昧な状況での運動と、確実な状況での運動は、一見、同じに見えても、脳内では異なる運動として記憶されていることを意味する。 手の動かし方についての運動の記憶は、動かす手以外の要素(ターゲット位置や反対側の手の姿勢など)などの文脈に依存して記憶されていることが報告されていたが、一見、運動そのものとは直接関係のない、先行する意思決定の不確実性が記憶の文脈となっているのは新しい発見であるといえる。本知見は、運動の学習が先行する意思決定から独立でないことを示しており、効率的な学習法の開発に役立てられると考えられる。
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