K3曲面上の安定層のモジュライについて、ピカール数が1の場合にBrill-Noether軌跡に関する研究を継続した。とくにwall crossingに現れる、ある種の負の階数の安定複体のモジュライ空間を調べた。その応用として、階数が低い場合のtotally semistable wallを分類するのに、これまで使っていた議論を簡略化した。このほか関連する研究として、exceptionalベクトル束で定義されるフーリエ向井変換について、安定性の保存とwallの関係について、いくつかの例を調べた。 ピカール数1のアーベル曲面上で第一コホモロジーが消える安定ベクトル束すなわち安定なACM束が存在するための条件を向井ベクトルで記述した。 これらの研究については、国際研究集会で研究発表を行った。 アーベル曲面上の導来圏は圏同値を与えるフーリエ向井変換の他に、アーベル曲面のisogenyによる引き戻し、直像などのendofunctorsがある。これらのendofunctorsは核が半等質層の族で与えられる積分関手である。これらの積分関手の合成で与えられるendofunctor(特に自己同値関手)の圏論的エントロピーをWeylのequidistribution theoremを使って計算し、またその特殊値とスペクトル半径に関する菊田-高橋の予想を確かめた。この結果はいくつかの修正のを経て、学術誌に受理された。
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