境界付きリーマン多様体の崩壊の研究は、以前のJeremy Wong氏の研究から始まったが、その後、研究代表者とZhilang Zhang 氏(Foshan)との共同研究により、内半径崩壊する境界つきリーマン多様体の構造定理が得られるまで全く進展がなかった。今年度は、Zhang 氏が4月から2021年1月まで京都大学に滞在し、断面曲率が下に有界で境界の第2基本形式のノルムが一様に有界である境界つきリーマン多様体のGromov-Hausdorff距離に関する極限空間の共同研究を実施した。内半径崩壊する場合、極限空間はアレクサンドロフ空間になるが、一般の場合、極限空間は極めてワイルドであり、極限空間の境界と呼ぶべき、崩壊するリーマン多様体の境界の極限に当たる部分の幾何が研究の突破口を開く鍵となる。そのため、先ず、極限空間の境界点を単純点と2重点に分類し、さらに単純点集合と2重点集合の境界に現れる点を単純特異点、2重特異点に分類した。ただし、これら2種類の境界特異点以外にも、単純点集合の内点でカスプ(尖点)と呼ぶべき特異点が現れる。今年度の研究では、極限空間のこれらの境界特異点の分類と特徴付け、それぞれの境界特異点集合のハウスドルフ次元の精密評価を与えた。特に単純特異点がカスプでもあることの証明は一筋縄では行かず、極限空間の境界の局所連結性に関する長い議論を経る必要があった。また上記の境界付きリーマン多様体の収束の下で、リーマン多様体の体積の収束および境界の体積の収束を示すことができた。他にいくつかの大域的な結果も得た。1月に筑波大学で研究集会「リーマン幾何と幾何解析」を開催し、成果発表や後進の育成に努めた。
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