研究実績の概要 |
昨年度までの研究で、対称マルコフ過程に対して、既約性、強フェラー性、緊密性なる三つの性質をもつクラス(以下, クラス(T)と呼ぶ)を導入し、その性質を調べてきた。特に、クラス(T)に属するマルコフ過程が生成する半群はL^2-コンパクト作用素となり, 全ての固有関数が有界連続修正をもつことを示した。さらに保存性を仮定すると、非常に強いエルゴード性、すなわち任意のコンパクト集合に対してその補集合からの脱出時刻が指数可積分性をもつことを示した。 これらの結果を示すうえで、マルコフ過程論の変換論の一つであるランダムな時間変更の理論が, 極めて有効であることが分かってきた。実際、 劣臨界性、臨界性を, 時間変更過程の最小固有値によって特徴づけることはできる。 その一つの応用として, シュレディンガー形式に対するポテンシャル論の構築した。詳しくは, ポテンシャル論の基本原理である、 魚返の最大値原理、 カルタンの最大値原理、連続性原理、エネルギー原理、平衡原理、掃散原理などを示した。これら原理は, 従来核の形に応じて示されてきた。ディリクレ形式論の一つの動機は、核に依らないポテンシャル論構築にある。その場合、ディリクレ形式が再帰的か過渡的かが理論に大きく影響する。シュレディンガー形式に対するポテンシャル論の構築においても、再帰性・過渡性の拡張概念である臨界性・劣臨界性が大きな役割を果たすことが分かった。 また、シュレディンガー形式における最大値原理やリュービル性の成立の条件も、時間変更過程の最小固有値の言葉で与えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年までの研究で、正定値シュレディンガー形式に対しては、臨界性・劣臨界性の判定条件を時間変更過程のスペクトル下限が1に等しいか大きいかで与えた。また、マルコフ作用素にポテンシャル関数を加えてできるシュレディンガー型作用素のグリーン関数に対して、それを核にもつポテンシャルを考えた。特に、最大値原理、連続性原理、エネルギー原理などマルコフ核が持つポテンシャルの基本的原理が保たれるためのポテンシャル関数に対する条件を、時間変更過程のスペクトル下限が1に等しいか大きいかで与えることができた。また、正定値シュレディンガー形式の比較することにより、一方の臨界性から他方の臨界性が導かれるというリュービル型定理を示した。その証明にも正定値シュレディンガー形式の臨界性・劣臨界性の判定が時間変更過程のスペクトル下限で与えられることが重要な役割を果たし、いずれの場合も、代表者が以前から考察している対称マルコフ過程のクラス(T)の導入が鍵となっている。この対称マルコフ過程におけるクラス設定が上手く機能しているといえる。 ポテンシャル論の基本原理は, 従来核の形に応じて示されてきた。ディリクレ形式論の一つの動機は, 核に依らないポテンシャル論構築にある。再帰性・過渡性の拡張概念である臨界性・劣臨界性が、シュレディンガー形式に対するポテンシャル論構築に大きく影響することを示し、この古典的問題に新しい視点が与えられたと考えている。
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