研究課題/領域番号 |
18H01121
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
竹田 雅好 関西大学, システム理工学部, 教授 (30179650)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ディリクレ形式 / 対称マルコフ過程 / シュレディンガー形式 / ハーディの不等式 / 臨界性 |
研究実績の概要 |
対称マルコフ過程に対して、既約性、強フェラー性、緊密性なる三つの性質をもつクラス(以下, クラス(T)と呼ぶ)を導入し、その性質を調べてきた。特に、クラス(T)に属するマルコフ過程が生成する半群はL^2-コンパクト作用素となり, 全ての固有関数が有界連続修正をもつことを示した。さらに保存性を仮定すると、非常に強いエルゴード性、すなわち任意のコンパクト集合に対してその補集合からの脱出時刻が指数可積分性をもつことを示した。今年度は、正定値シュレディンガー形式に対する臨界性・劣臨界性の特徴付けを行い、それを臨界的ハーディ型不等式の証明に応用した。 まず、拡張ディリクレ空間の概念の一般化である拡張シュレディンガー空間の性質をとおして正定値シュレディンガー形式に対する臨界性・劣臨界性の定義が、拡張ディリクレ空間の言葉で特徴づけられることを示した。これは、ディリクレ形式の再帰性・過渡性が拡張ディリクレ空間の言葉で特徴づけられることに対応している。また、 ディリクレ形式の再帰性とシュレディンガー形式の臨界性はドゥーブのh-変換をとおして互いに結びつく。さらに, シュレディンガー形式の臨界性は臨界的なハーディ型不等式を導く。 この二つの事実を結びつけることで、再帰的なディリクレ形式のh-変換によって臨界的なハーディ型不等式を導くことが可能になる。従来から知られていた臨界的なハーディ型不等式は、この方法でも導くことができることを確認した。 臨界的であることを示すためには、基底の存在を示す必要がある。特別なポテンシャルを持つ正定値シュレディンガー形式に対して、基底の存在を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
再帰的なエネルギー形式からh-変換をとおして臨界的な正定値シュレディンガー形式が構築されることが分かった。特に、1次元の場合であれば、再帰性は、フェラーの境界分類を応用することで、比較的容易に確認することができる。したがって、臨界的で正定値性を持つシュレディンガー形式も構築され、臨界的なハーディ重みを比較的容易に得ることができる。 この方法は、新しい方法を与えているのみならず、容易である。実際、再帰性を示すためには、定数関数が拡張されたディリクレ空間に含まれることを示せばよいが、臨界性を示すには、基底関数が拡張シュレディンガー空間に含まれることを示す必要があり、より困難である。この意味で、我々の方法は有用であると考えられ、実際、従来知られている有名なハーディ型不等式が、我々の方法でも得られることを確認できた。 議論の中で、正定値シュレディンガー形式の可閉性を示すことが必要になる。本研究で、局所加藤クラスに属する測度をテンシャルに持つ正定値シュレディンガー形式は可閉であることを、確率論的な方法で示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
正定値シュレディンガー形式の臨界性・劣臨界性の概念は、マルコフ過程における再帰・過渡性の拡張概念である。このことに着目して、拡張シュレーディンガー空間の言葉で臨界性・劣臨界性を特徴づけることができる。再帰的ディリクレ形式からh-変換をとおして臨界的シュレーディンガー形式を構成することにより、臨界的ハーディ重みの例をさらに構成したい。さらに、無限遠点近傍における臨界性と零臨界性を示すことで、臨界的なハァーディ重みが、Pinchoverらにより導入された、さらに強い概念である最適な重みになるための条件を求め、最適なハーディ不等式を示すことを目指す。 以前、保存的でない対称マルコフ過程に対して準定常分布の存在と一意性を示し、さらに内在的超縮小性を満たせばヤグロム極限にもなっていることが示せた。そこで、興味深い適応例を見つけることが今後の課題となる。特に、ジャンプを許す多次元の対称マルコフ過程に対しては、この一般論を適応できる具体例が少ない。具体的な生物モデルに対して, 生存時間の減衰速度と準定常分布への収束速度を計算し比較検討することで、準定常分布の役割を明確にし、引き続き研究課題をする。
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