研究課題/領域番号 |
18H01125
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松崎 克彦 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80222298)
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研究分担者 |
新井 仁之 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (10175953)
須川 敏幸 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (30235858)
佐官 謙一 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特任教授 (70110856)
小森 洋平 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (70264794)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 複素解析 |
研究実績の概要 |
タイヒミュラー空間上の計量としてはタイヒミュラー計量やヴェイユ・ピーターソン計量が代表的であるが,これらはどのようなバナッハ空間をモデルとする複素構造を導入するかにより自然に定義されるフィンスラー計量である.本研究で扱う BMOタイヒミュラー空間は,単位円板および単位円周上で定義されるBMO関数に関連した擬等角写像のなす空間である.この空間にはある方法で Carleson 測度を構成するような正則2次微分からなるバナッハ空間をモデルとした複素構造が入り,したがって自然にCarleson 計量と名付けた計量が定義できる.この計量の性質を考察することが当初の研究計画であった.しかし,実軸という非コンパクトな定義域上で漸近的等角写像のタイヒミュラー空間およびVMOタイヒミュラー空間を考察するという問題に遭遇し,その研究に関して以下のような成果が得られた.擬等角写像(擬対称写像)を限定して普遍タイヒミュラー空間の部分空間を考える場合には,その条件をコンパクト集合(単位円周)上で置くか非コンパクト集合(実軸)上で置くかで理論が大きく異なる場合がある. (1)実軸上のVMOタイヒミュラー空間を構成する強対称写像について,それ自身および逆写像の一様連続性を仮定すればその全体は群構造をもち,また退化Carleson 測度を誘導するような上半平面上の擬等角写像に拡張することが証明された. (2)実軸上の漸近的等角写像のタイヒミュラー空間の概念を一般化し,区分的な対称写像による空間を普遍タイヒミュラー空間の閉部分空間として定式化した.これらの空間の増大列による普遍タイヒミュラー空間を補間する結果および商空間の構成を得た.計量については,商空間の複素構造を定義し,商フィンスラー計量を与えた.また,小林計量とタイヒミュラー計量の比較について,先行研究の方法では解決しない問題点を提示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タイヒミュラー空間はリーマン面の複素構造の変形空間である.本研究ではリーマン面としては最も簡単な単位円板を考え(普遍タイヒミュラー空間),その上の擬等角写像に種々の制限をあたえて変形空間を定義し,その性質を考察する研究を行った.当初の研究計画はタイヒミュラー空間の計量に関するものであったが,その研究の過程で新しいタイヒミュラー空間を導入しての成果が得られている.未開拓で重要な研究の方向もみつかってきているため,研究内容の幅が大きく広がった.
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今後の研究の推進方策 |
以下のような具体的な課題についても研究を進める.(1)非コンパクトな設定での普遍タイヒミュラー空間の理論をさらに研究する.実軸上の対称写像全体,強対称写像は群構造を持たないが,これまで研究で一様連続性を仮定すると群構造や擬等角拡張に関してコンパクトな設定での性質と同様な性質をもつことがわかってきた.今後はこの研究の完成をめざす.同様にして,これまで見過ごされていたヘルダー連続微分をもつ微分同相写像についても実軸上のタイヒミュラー空間論の問題を点検する.(2)これまでの研究では,実軸上の対称写像のタイヒミュラー空間の一般化である区分的対称写像のタイヒミュラー空間を定式化し,普遍タイヒミュラー空間を近似する部分空間の増大列を構成した.残っている問題として,タイヒミュラー計量と小林双曲計量の一致について, Strebel 点の分布を精査して証明を与える.(3)双曲リーマン面上の可積分なベルトラミ微分がつくるタイヒミュラー空間については研究成果があるが,可積分性に変えて,指数的減衰オーダーを指定したベルトラミ微分からなるタイヒミュラー空間の構成について研究する.このタイヒミュラー空間は,単位円板の場合には円周上のヘルダー連続な微分をもつ微分同相写像のタイヒミュラー空間に相当するものである.このような普遍タイヒミュラー空間の部分空間をフックス群の作用と両立する形で構成する方法について2通りの方法を与え,BMOタイヒミュラー空間についてもそれを実行する.
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