研究実績の概要 |
研究の目的は偏微分方程式で記述される問題の解の幾何学的性質の探求を主眼に, 偏微分方程式を介在として幾何学と逆問題を有機的に結びつけより一層発展させることにある。 代表者坂口の主な成果は2つあり, 一つは与えられた局所リプシッツ連続関数を平均曲率にもつグラフの偏微分方程式の半連続粘性解の強比較定理の新しい単純な証明を学術誌に発表したことである。今まで正しい証明を与えた論文はなかった。もう一つは, 多層熱伝導体内の一つの不変等温面または不変等熱流面の存在による平行超平面の特徴付けの定理を証明し, 本研究の主題である偏微分方程式を介在とした幾何学と逆問題の新たな結びつきを発見したことである。既に学会等で成果発表を行い論文を準備中である。分担者磯部は平坦トーラスへのディラック・調和写像の存在問題を研究し, 論文を学術誌に投稿した。結果はハミルトン系の周期解の存在に対するアーノルド予想の類似を含む。分担者川上は動的境界条件を有する拡散方程式の拡散極限と付随する退化拡散方程式の大域解析および逆2次ポテンシャルをもつ半線型熱方程式の大域可解性に関する臨界指数について研究を行い, 論文を学術誌に投稿した。分担者船野は測度集中の手法を用いて, 閉リーマン多様体上のラプラシアンの固有関数の値分布の研究に取り組み, 固有関数の節集合の周りの指数型集中不等式やSogge型Lpモーメント不等式を得た。手法が新しく, 不等式は量的である。分担者池畠は囲い込み法において物体境界上での入力として与えるノイマンデータを, 波動方程式の全空間における初期値問題の解を用いて生成し, それを熱方程式の逆問題に適用し, そのデータの時間反転を入力として与える新しい囲い込み法を展開した。さらに2層問題における時間領域における囲い込み法を単独の波動方程式に対して伝搬速度に制限を付けない形で実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題に対して相応の進展があった。特に, 多層熱伝導体内の不変等温面または不変等熱流面の存在による平行超平面の特徴付けの定理を証明し, 本研究の主題である偏微分方程式を介在とした幾何学と逆問題の新たな結びつきが発見され, 解の挙動と領域の幾何学的情報との関係に対する新たな展開が期待される。
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