研究課題/領域番号 |
18H01127
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
時弘 哲治 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (10163966)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 準可積分系 / 超離散系 / セルオートマトン / 代数的エントロピー / ファジーセルオートマトン |
研究実績の概要 |
円分多項式に付随する1次元非線形漸化式について,準可積分であるものを求める研究を行った.具体的には,円分多項式が代数的エントロピーの特性多項式となる漸化式において,そ の任意の項を定数だけシフトした漸化式を考察し,それらがco-primeness条件を満足するかを網羅的に調べた.各々の系に対応する超離散系を考え,数値的に代数的エントロピーを見積もった.その結果,系は3つに分類される.周期系,代数的エントロピーがゼロの系,正の代数的エントロピーを持つ系に分類できたが,超離散系において数値的には準可積分的であっても元の系が準可積分的でないものなど例外が多く,完全な分類は困難であることが分かった.その研究と並行して,長距離な相関を特異積分で表現する交通流システムが可積分系であることを利用して,対応する離散可積分系を考察した.完全な対応関係を持つ系を得るには至らなかったが,その過程でファジーセルオートマトンを用いた系においても準可積分性を生じることがわかった.そのため,ルール184ECAをファジー化することによって得られる交通流モデルについて詳細に解析した.この系は典型的な交通流モデルであるECA184とバーガーズ方程式を一般化したものである.このファジーセルオートマトン(FCA184)に対して,すべての定常状態を厳密に求め,その密度と流量の関係を示す基本図(fundamental diagram)を解析的に求めた.また,例えば高速道路の入り口あるいは出口付近で生じる渋滞状況,いわゆるボトルネック効果についても定性的に正しい結果を与え,定常状態となる条件を定めた.さらに,FCA184の超離散系を考察し,すべての状態が有限の時間ステップ内に進行波解に収束することなどを証明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標であった,可積分系を一般に含む準可積分系について,特異点閉じ込めテストを通過しながら可積分性を持たない Hietarinta-Viallet 方程式が,co-primness条件を満足し,我々の定義における準可積分系であることを証明し,また,その一般化である2次元格子系を提案できた.さらに,この格子系が準可積分性を保存したまま一般の次元に高次元化できることを示した.その簡約(reduction)によって得られた1次元離散系について,すべて厳密に代数的エントロピーを求めることができた.また,これまでに知られている典型的な離散可積分系(離散KdV方程式系,離散戸田格子系)がすべて一般的な境界条件の下でco-primeness条件を満たしていることも証明した. これらの証明においては,caterpillar lemma を代数的に拡張した補題を用い,系がLaurent性を用いることを使った.したがって,Cluster代数で表現される系の多くが準可積分性を持つことも同時に示すことができた.また,系の発展方程式系が規約性を持たない場合についても,代数的な処理によって準可積分性を証明する手法も確立した. 一方で,特異点閉じ込めを満たさないが線形化できるという意味で可積分な系について,その高次元化を行った.特に,Heideman-Hogan漸化式系の高次元化に成功している. 一方で,なかなか困難であるのは,準可積分系の分類理論である.円分多項式系に注目して網羅的な研究を進めたが,納得できる結果はまだ得られておらず,今後の課題と考えている.これらの点から,準可積分系の研究の進捗状況はおおむね順調と考えている.
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今後の研究の推進方策 |
一番重要な点は,準可積分系の分類である.これは,一定の性質を持つ系を網羅的に調べることが重要であり,特に超離散化を利用した方法を考えている.ただ,やみくもに数値的に調べるこれまでのやり方ではあまり進展が望めないため,新たな手法を模索する必要がある.現在注目しているのはグレブナー基底などを用い,適当な変換によって基本的な構成要素に分けて議論する方法である.また,クラスター代数で記述される系のみに注目して考えれば,ディンキン図形などを用いたリー代数の分類的な分類手法も可能になると考えている. 一方で,準可積分性に関わる問題として,超離散化及びセルオートマトンのファジー化があげられる. 超離散系では離散可積分系から極限操作によりセルオートマトンを構成することができるが,その極限操作は一意的ではなく,得られる超離散系も様々であり可積分性を保存するとは限らない.円分多項式に付随する系では,準可積分ではないものの超離散化により可積分あるいは準可積分的な性質を持つものが見つかっている.したがって,離散準可積分系の超離散化を様々な形で考察することが一つの課題となる. また,超離散化の逆の手続き(逆超離散化)には確立した手法はなく,これまでは解を保存するために多くの手続きが考えられてきた.最近,筆者らはセルオートマトンのファジー化に標準的なものが存在し,射影空間の離散力学系に対応させられることを見出した.これは一種の逆超離散化に他ならない.この手法を用いて,箱玉系などの可積分セルオートマトン系をファジー化し,その性質を調べる,特に co-primeness条件が満たされるかどうかを調べることを進めてゆきたい.,
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