本年度は,導関数を非線形項にもつ微分型の非線形シュレディンガー方程式に対して時間大域構造を研究した.3次の微分型を伴うべき乗型の非線形項について,非線形シュレディンガー方程式の時空間の伸張変換は全質量ノルムを不変に保つ.これまでの研究では,全質量ノルムが小さい場合には,方程式の初期値問題はソボレフ空間において時間大域的に適切であることが知られている。また,最近の研究により,質量ノルムが多項式ソリトン解よりも小さい場合には,時間大域適切性が成り立つことも示されている.このような研究がある中で,この多項式ソリトン解と同じ全質量をもつ初期値問題の解が時間大域的であるか,つまり多項式ソリトン解の質量値が大域適切性に対する閾値であるかどうかという問題について検討した.解が有限時間において発散する場合には,導関数を非線形項に伴わない非線形シュレディンガー方程式に対して Kenig-Merle らによって開発された concentration compactness の方法を用いることによって,有限時刻で発散するならば,発散時刻に近づくにつれ解は特異性を持ち集約することが分かり,多項式ソリトン解に漸近することを証明した.爆発解に対する解の特異性については解明したが,問題の前提である有限時刻で発散するという状況が反証であるかという問題は解明できなかった.この問題については,今後の課題とした.また,ワークショップ「Workshop on nonlinear wave equations and related topics in Kobe」を11月に所属機関で開催し,関連する研究課題と本問題点の洗い出しを行った.
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