本年度は昨年度に続き,微分を非線形項に含む微分型非線形シュレディンガー方程式の初期値問題に対する時間大域可解性を研究した.完全可積分系の方程式に対しては,逆散乱法による強力な手法によってソリトン解を構成することができるが,捉えられる解のクラスとしては空間の遠方で十分早くゼロに減衰していることを仮定する場合が多い.ここで考えている微分型非線形シュレディンガー方程式の初期値問題は,方程式のスケール不変変換を満たす2乗可積分空間の値が多項式ソリトンと同じ場合であり,つまりそれほど早くゼロに減衰しない初期値を扱った.昨年度実行した計算から,時間無限遠を爆発を含む設定の下,解の1階導関数の時間発展が発散した場合には解の特異性が判明し,それは多項式ソリトン解に漸近することが分かった.それを踏まえ,本年度は解の1階導関数の時間発展が発散するかどうか,反証可能であるかについて研究した.まず,多項式ソリトンに対して,エネルギー量とモーメント量のいくつかがゼロ値であること,及び発散する解に対しては,プロファイル分解を用いて高階のエネルギー量とモーメント量を計算し,それがゼロに近づくことは判明したが,実際にそれが起こり得るかどうかまで解明することはできなかった.この方法によって,解の大域可解性が実現できるかどうかの問題については,今後の課題とした.これまでの結果を論文としてまとめ,雑誌インターネットアーカイブサイトへ掲載,その後で学術雑誌へも投稿した.
|