研究課題/領域番号 |
18H01132
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高村 博之 東北大学, 理学研究科, 教授 (40241781)
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研究分担者 |
池田 正弘 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, 特別研究員 (00749690)
若杉 勇太 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 講師 (20771140)
若狭 恭平 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 研究員 (60783404)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非線形波動方程式 / 初期値問題 / 半線形 / 消散項 / エネルギー解 / 有限時間爆発 / 時間大域存在 / 臨界指数 |
研究実績の概要 |
半線形消散波動方程式に対する初期値問題を、消散項が時間減衰をもつ場合に詳細に解析した。今まで知られて来たような、その減衰が弱いときにエネルギー解の性質が関連する半線形熱方程式のそれに近いという現象ではなく、 減衰が強く消散項がない半線形波動方程式のそれに近いという現象があることを示すことが大きな目標であった。今回は、それを小さな初期値に対する時間大域解の存在と非存在を分ける臨界冪を明らかにすることによって達成することを試みた。 得られた結果は主に解の最大存在時間の上からの評価、つまり解の非存在、で最適と思われるものである。それは消散項に時間変数に関して1次より強い減衰があれば、上記臨界冪が消散項がない場合と一致するという結果である。この1次より強い減衰を持つ場合には何一つ結果が存在していなかったが、本研究の先駆けである前年度に基盤研究Cの支援を受けた共同研究で開発した消散項を吸収する掛け算作用素を採用することが本質に寄与した。つまり、未知関数の全空間積分量の時間導関数が満たす常微分方程式に着目し、主要部の積分因子を用いることが研究の進展に大きく貢献した。 その成果は出版した二つのN.-A.Lai氏との共著論文に集約されている。一つは非線形項が未知関数の時間導関数の冪になっている問題に対する結果で、消散項がない場合の臨界冪にあるGlassey指数が出現する。得られた解の最大存在時間の上からの評価は初期値の小ささのオーダーで測ったときに最適になっている。もう一つはその非線形項と未知関数自身の冪との和の形になっているものに対する問題で、それぞれの非線形項単独に対する臨界指数より大幅に低くなる、つまり解が爆発しやすくなるcombined effectという現象が、消散項があっても起きるというものである。これも、消散項がない場合と同じ解の最大存在時間の上からの評価を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度の本研究の前身である基盤研Cの支援を受けた研究成果から、今年度では非線形項が未知関数の時間導関数のみに依存している場合に期待される結果をある程度導出できれば良いと考えていた。しかし、開発した掛け算作用素は予想以上に汎用性が高く、未知関数自身の冪をその非線形項に加えても解析できることがわかった。これによって解の最大存在時間の上からの評価に関する期待される結果を全て得たことになり、この方面で先駆的な研究に進展した。また、この成果を発表した直後に、中国の研究グループが本研究成果の最適を保証する、つまり、同じ初期値のオーダーをもった解の最大存在時間の下からの評価を一部導出した。技術的な困難もあってそれは部分的なものではあるが、今後の非線形消散波動方程式の研究を方向付けるものとなっている。現に本研究で導出した二つの出版論文は、すでに複数の出版論文やプレプリントで引用されている。これらの状況を踏まえ、今年度の進捗状況区分を判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は大きく分けて二方向ある。一つは今年度得られた単独方程式に関する結果を系に拡張することである。これは、どちらかというと時間があれば達成できるものであるが、その分競争が激しい。従って、研究協力者を増やして対応したい。 もう一つは、懸案となっているスケール不変、つまり臨界であるちょうど1次の時間減衰が消散項にある場合の解析である。対象が難しいので、まずは試行として係数が特別な場合の様子を見たい。詳しくは以下の問題から解析を開始する。リュービル変換によって対象の問題は、非線形項に時間減衰が付いたKlein・Gordon型の方程式に変換される。その際、質量項は時間変数に関して2次の減衰をもち尚且つ特別な係数が付いた形になる。その係数は元の問題の消散項の係数が特別な場合にゼロとなり、時間減衰付き非線形項をもった波動方程式が現れる。この事実はすでに知られており、その場合の臨界指数も得られている。しかし、解の最大存在時間評価は得られておらず、その状況が波動方程式に近いのか熱方程式に近いのか不明である。 より詳しく、スケール不変な消散項が付いた非線形項が未知関数自身のみの冪の場合、臨界指数は非線形波動方程式のそれであるStrauss指数を消散項の係数で持ち上げたものと非線形熱方程式のそれである藤田指数との最大値になる。ここで、Strauss指数は空間次元をパラメータにもち、それに関して単調減少になっていることに注意する。予想では臨界指数はStrauss指数における空間次元に消散項の係数を加えたものになっている。消散項の係数が大きくなるといつかは藤田指数と一致し、そこから先は非線形熱方程式と同じ臨界指数である藤田指数になる。この現象は特別な初期値に対する解の爆発のみ得られている。空間2次元では両臨界指数が一致し、かつ消散項の係数が先に述べた特別な場合が臨界で、特に解析が急がれる。
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