今後の研究の推進方策 |
A. 前年度までは室温に限られていたテラヘルツ強電場下の実験を低温で行う。電子型強誘電体の多くは転移温度が室温よりも低いため、低温実験によって対象物質が飛躍的に増える。前年度にクライオスタットを用いて構築した顕微測定系と組み合わせて低温下での実験を行い、分子自由度のある電子型強誘電体(TMTTF)2X(X = SbF6, AsF6, PF6, ReO4, BF4, ClO4)においてドメインダイナミクスを明らかにする。アニオンX(化学圧力)の異なる試料での結果を系統的に比較し、次元性との関連を探る。特に、アニオン秩序(X = ReO4, BF4)によって外的要因が取り除かれたドメインに注目し、電子相関の役割を抽出したい。まず結晶全体からの光第二高調波によってダイナミクスの全体像を掴んだ後に、顕微測定によって時空間ダイナミクスを探索する。 B. 他の電子型強誘電体での実験も進め、普遍性と多様性を見出す。高品質結晶が得られるようになったα-(ET)2I3、鉄酸化物、有機伝導体としては珍しい価数不均一性を有するα''-(ET)2RbCo(SCN)4、などを候補物質とし、実験を進める。 C. 電場下のドメインダイナミクスの異方性を精査する。テラヘルツ強電場の方向は、ワイヤグリッド偏光子対を導入することで、360度自由な方位に回転させることができる。結晶軸や分極方位に対する異方性を調べ、ドメイン形状との関わりを明らかにする。特に、従来の光誘起相転移研究ではあまり注目されてこなかった、電場や分極の符号に関連したダイナミクスに着目する。近赤外光(電荷秩序の融解)と高強度テラヘルツ光(分極整列)を同時に用いるハイブリッド印加に挑戦し、超高速分極スイッチングの可能性を探る。
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