研究課題/領域番号 |
18H01145
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 正仁 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70271070)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 冷却原子気体 / 非エルミート物理 / トポロジカル現象 / 多体局在 / トポロジカル相の分類 / 量子磁性 |
研究実績の概要 |
当該年度に実施した研究の成果は、(1)散逸下のHubbard模型における磁性、(2)非エルミートトポロジカル相の分類、(3)非エルミート多体局在の3点である。 (1)Mott絶縁体中の磁性においては、Hubbard 模型からの2次摂動によって導かれるスピン交換相互作用が主要な役割を果たす。冷却原子気体で実現されるHubbard 模型において、原子間の非弾性散乱に起因する散逸が存在する場合、スピン交換相互作用が本質的に変更を受け、通常の平衡状態とは全く異なる磁性が発現することを見出した。具体的には、上記の2次摂動中の中間状態が有限の寿命を持つことでエネルギーの高いスピン状態が安定化し、Fermi-Hubbard 模型においては強磁性が発現し、2成分 Bose-Hubbard 模型においては反強磁性相関が発達することを見出した。 (2)我々は、非エルミートなトポロジカル絶縁体・超伝導体・半金属を記述する分類理論を構築した。従来の物理において最も基本的な10通リの内部対称性クラスが、非エルミート性ゆえに38通りに変化することを見出した。また、エネルギーが複素数になることにともなって、2種類の複素エネルギーギャップが定義され、多彩な非エルミートトポロジカル現象が記述されることを明らかにした。 (3)エルミートな量子系ではスペクトルの実性が保証されるが、非エルミート系でも固有値が実になる場合がある。先行研究では相互作用のない一粒子スペクトルの研究が中心であリ、相互作用の効果が多体スペクトルの構造にどう影響するかは不明であった。我々は、非対称ホッピングを持つ相互作用する乱れた系において乱れを強くすると、固有値の実・複素転移が多体のスペクトルのレベルで起こること、それが系の動的安定性を劇的に変えることを発見した。この転移は多体局在転移によって引き起こされる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では冷却原子を主な実験的舞台として、非平衡量子開放系における新規現象の探索と量子測定を通じた制御を目指している。そのためにはいくつかの克服すべきマイルストーンが存在する。まず、開放系では系が外界と相互作用をするが、それに伴う散逸の効果が系の性質に有用な効果を生み出すかという基本的な問題がある。我々は量子磁性に着目し、散逸の効果のおかげでFermi-Hubbard 模型においては強磁性が発現し、2成分Bose-Hubbard模型においては反強磁性相関が発達することを見出した。そのような磁性の反転は開放系特有の効果といえ、所期の目的が達成された。もう一つの課題は、そのような系でどのようなトポロジカル相が存在するかという問題である。この問題に対する最終的な答えはまだないが、今回、非エルミート系という開放系の特別なクラスのトポロジカル相の分類を完成させた。最後に、乱れた非エルミート系において多体局在に伴って固有値スペクトルが複素数から実数へ転移するという興味深い現象を見出した。これは非エルミート多体系のユニークな効果である。以上のように研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは主として非エルミート系という開放量子系の特別なクラスに焦点を当てた研究を行ってきたが、その線に沿った物性研究は引き続き行う。特に、超伝導の基本的な性質がどのような変更を受けるかや、トポロジカル相転移に本質的な新奇性が生じるかどうかに焦点を当てた研究を行う。さらに、非エルミートを超えた一般の非平衡量子開放系の研究を本格的に開始する。まずは、その典型例であるリンドブラッド型の量子開放系に焦点を当て、そのような系の安定性や非平衡超流動の性質、および、そのようなトポロジカル相におけるバルク-エッジ対応がどのような変更を受けるかを明らかにする。
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