研究課題/領域番号 |
18H01150
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
冨田 誠 静岡大学, 理学部, 教授 (70197929)
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研究分担者 |
松本 貴裕 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 教授 (10422742)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 誘導透明化現象 / プラズモン / グース・ハンシェンシフト / 速い光、遅い光 / 因果律 |
研究実績の概要 |
1.Fano構造の中での高い反射率を持った巨大グース-ハンシェンシフト 平成30年度までに、導波路型の共鳴構造の中にAgの表面プラズモン共鳴が作り出す誘導透明化現象を実現してきた。平成31年度は、この研究を発展させ、Agの表面プラズモン共鳴の中で導波路構造による透明化窓が作られる新しい構造を開発した。この新しい構造で、0.176 mmというGHシフトを実現した。これは、波長に対して(GH shift/ ) = 493という極めて巨大なシフト量である。通常の共鳴構造では大きなGHシフトは必然的に反射率の低下を伴っていた。ここでのGHシフトのユニークな特長は、Fano構造の位相反転効果を利用することで巨大GHシフトと高い反射率を共存させることができる点である。 2.直列配置リング共振器を長距離伝播する光パルス リング共振器が作り出す異常分散によって「速い光」を実現できる。本研究では、多段共振器の特長を生かし、各段を通過すパルス波形の振る舞いを系統的に観測することに成功した。急峻で複雑な分散構造を波束が伝播する場合、分散の高次効果によって波束は広がり、大きな変形がおこる。このため従来の群速度の定義は破綻する。この時、(1) 鞍点法と(2)Net遅延、Reshaping遅延による方法、によるパルス伝播速度の定義が、直列配置リング共振器を長距離伝播する光パルスでも有用な方法であることを示した。鞍点法は、屈折率の虚部の一階微分の効果を、伝播距離に依存した鞍点の移動、スペクトルの移動として取り入れることになる。Net遅延、Reshaping遅延による方法では、ある場所での波束の到達時刻をポインティングベクトルの時間重心によって定義することで、分散やパルススペクトル構造がより複雑で、その中を伝播する波形が大きく変形する場合にも適用できる優れた方法である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、結合共振器における2つの研究テーマを推進している。 A プラズモン誘導透明化現象におけるGoos Hanchenシフト このテーマにおいては、平成30年度に、CHシフト観測用の多層膜試料を作製する過程で、膜の剥がれが頻発した。この膜の剥がれを防ぐため、膜に極めて薄い緩衝層を必要とすることが判明した。多層膜試料の準備の遅れから研究計画全体に遅れが生じ、科研費の繰越を行った。その後、問題点の解決、光学測定システムの構築を進め、研究の遅れを取り戻している。当初の研究計画にある、導波路の共鳴構造の中にAgの表面プラズモン共鳴が作り出す誘導透過現象を発展させ、両者の関係を逆にした、Agの表面プラズモン共鳴の中で導波路構造による透明化窓が作られる新しい構造を開発した。この新しい構造で、巨大なGHシフトを実現した。 B 多段配置されたリング共振器における「速い光」とコヒーレント現象 このテーマにおいては、順調に研究が進んでおり、弱結合条件下でのリング共振器が作り出す異常分散によって「速い光」を実現し、多段共振器の特長を生かし、各段を通過す波形を系統的に観測することに成功した。また、当初の研究計画をさらに発展させ、鞍点法、Net遅延、Reshaping遅延による方法が、直列配置リング共振器を長距離伝播する光パルスでも有用な方法であることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
A.Net and reshaping Goos-Hanchen (GH) Shift 分散媒質中での波束の伝播は物理学の重要な問題である。時間領域ではこの現象は群速度伝播として研究されてきた。急峻で複雑な分散構造を波束が伝播する場合には、分散の高次項によって波束は広がり、大きな変形がおこる。本研究で研究対象とするGHシフトは、空間領域での分散による波束の断面方向への移動であり、時間領域の群速度と厳密に対応がつくものである。この時、入射ビーム径が非常に小さい場合などは、高次の分散の影響でビームプロファイルが大きく広がる、あるいは、変形することが起こる。この時、時間領域で確立されてきたNet遅延、Reshaping遅延の概念を拡張し、Net GH シフト、Reshaping GH シフトの概念によって高次の分散が問題となる系でのGHシフトを記述する方法を研究する。
B.多段リング共振器におけるパルスピークを除去されたパルスからのパルスピークの出現 「負の速度」をもつ媒質では、“光パルスのピークが媒質に入射するよりも早く、媒質から出射してくる”という一見、因果律、あるいは相対論に反するように見える奇妙な現象を引き起こす。この特異な振る舞いから導かれる1つの疑問は、ガウス型パルスの先頭部分が媒質に入射した後、入射ピークが媒質に入射するよりも早く入射パルスが“遮断”された場合、出射パルスのピークは現れるか、という疑問である。令和2年度は、直列配置された共振器列の高い異常分散をもちいて、ピークを持たない入射パルスによる出射パルスピークの観測する実証実験をおこなう。
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