令和3年度においては以下の2つの研究成果を得た。 1.パルスピークを除去されたパルスからの減衰のないガウスピークの再生 「負の速度」をもつ媒質では、“光パルスのピークが媒質に入射するよりも早く、媒質から出射してくる”という一見、因果律、あるいは相対論に反するように見える奇妙な現象を引き起こす。この特異な振る舞いから導かれる1つの疑問は、ガウス型パルスの先頭部分が媒質に入射した後、入射ピークが媒質に入射するよりも早く入射パルスが“遮断”された場合、出射パルスのピークは現れるか、という疑問である。令和2年度の研究では、多段結合リング共振器において、出射パルスピークが形成されていく過程を連続的に捉えることに成功した。令和3年度の研究においては、研究代表者が開発した“逆”CRIT構造に現れる制御性の高い異常分散をもちいて、ピークを持たないガウスパルスを入射させ、“減衰しない”出射パルスピークを観測するという実験を試みた。通常のCRITが強い吸収領域に干渉によって透明領域を作り出すのに対して、“逆”CRIT構造では“増幅”領域に干渉によって透明領域を作り出す。逆CRIT構造のなかでは、パルスは増幅も、減衰もなく、負の群速度遅延を持って伝播するため、パルスのピークに関わる現象をより明確に示すことができた。また、逆結合共振器誘導透明化構造からAuster-Towns型への遷移についても観測した。 2.全透過スペクトル構造の中での「遅い光」 通常、分散を作りだすことのできる共鳴構造は、Kramous-Kronichの関係式から必然的に吸収や増幅を伴っているが、まったく平坦なスペクトル構造においても分散を持つ場合があることを実験的に示し、遅い光を観測することに成功した。
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