研究実績の概要 |
トポロジカル絶縁体薄膜を微細加工することにより、直径2 μmのリング形状試料を作製した。アハロノフ‐ボーム効果を観測することをを目的として、希釈冷凍機を用いて試料を冷却し、温度30 mKにおいて電気伝導測定をおこなった。磁場や励起電流の大きさ等を変えながら測定を試みたが、アハロノフ‐ボーム効果に対応する電気伝導度の振動現象は観測できなかった。電子波の非弾性散乱長が試料サイズに比べて短いためだと考えられる。非弾性散乱長が、電子濃度や膜厚などの薄膜試料のパラメータにどのように依存するのかを調べ、アハロノフ‐ボーム効果の観測のために最適な条件の探索をおこなっていく。 また、磁性トポロジカル絶縁体において、量子異常ホール効果状態と通常絶縁体状態の間のトポロジカル量子相転移現象の測定をおこなった。励起電流を大きくすると電子温度が上昇し、相転移が緩やかになっていく。この電流依存性と以前に測定した温度依存性[M. Kawamura et al., Phys. Rev. B 98, 140404 (2018).]の結果を組み合わせて、相転移の量子臨界点近傍における非弾性散乱長の発散の指数を決定した。非弾性散乱長は、温度を上昇するに従い、温度の-1.7の冪で減少することが分かった。この結果は、磁性トポロジカル絶縁体表面電子の非弾性散乱長が非磁性半導体に比べて、温度に敏感であることを示している。フォノン散乱に加えてマグノン散乱などの非弾性散乱の影響が強いためではないかと考えている。
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