研究実績の概要 |
トポロジカル絶縁体(Bi,Sb)_2Te_3薄膜の量子伝導に関する実験をおこなった。幅500 nmの細線に試料を加工し、細線の長手方向へ磁場を印加することで、トポロジカル表面状態を周回する軌道の量子干渉効果の測定を試みた。希釈冷凍機を用いて試料を60mKまで冷却して実験んをおこなったが、干渉効果の兆候は観測できなかった。このことは、60 mKの低温であってもコヒーレンス長が1μmよりも短いということを示している。 また1ケルビン以下の低温で、2μm角に加工した(Bi,Sb)_2Te_3薄膜試料の磁気抵抗を測定したところ、普遍的コンダクタンス揺らぎを観測した。コンダクタンス揺らぎの大きさは温度の平方根の逆数に比例して増大し、約100 mKで飽和する振る舞いを示した。最低温度でのコンダクタンス揺らぎの振幅は量子コンダクタンスe2/hの約5分の1程度まで大きくなった。これは典型的な普遍的コンダクタンス揺らぎの振る舞いであり、100 mKよりも高温の温度域では、電子温度で決まる熱的拡散長が量子コヒーレンスを支配していることが分かった。また、コンダクタンス揺らぎの自己相関関数からコヒーレンス長を求めたところ、約500 nm程度という値が得られた、この結果は上述の500 nm幅細線で干渉効果が観測できなかったことと整合する。 これらの結果は、MBEで作製した(Bi,Sb)_2Te_3薄膜のトポロジカル絶縁体表面状態では、III-V族半導体で観測されているような長いコヒーレンス長は期待できないということを示している。今後は、薄膜試料の膜質を向上させると同時に、微細加工の精度を上げてより小さいサイズの試料での実験ができるように試料作製方法の見直しに取り組む。
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