研究課題
申請者はこれまでに、半導体量子ドットを機械振動子と結合させた複合構造の研究に取り組み、10 fmという極めて小さな振動振幅の検出に成功するとともに、量子ドット中の電子状態がマクロなスケールの振動子の運動に作用する現象を世界で始めて観測した。本研究では、半導体量子構造を結合させた機械振動子に、新たに超伝導回路を融合させ、量子基底状態の実現と量子化振動の検出を可能にする。2019年度の研究として、機械振動子冷却に向けた高Qマイクロ波共振器の実現を目標にデバイス開発のための基本的なプロセスを確立することを目標とした。本研究では、1万以上のQ値をGaAs基板上で実現するため、多層の微細加工プロセスを確立し、半導体基板と超伝導回路の間にバリア層となるグランドプレーンを層挟んだ回路を実装し、基板の結合を弱めた構造を研究する。2019年度には、初年度に調達した成膜装置類の導入、立ち上げ、試作による高品質膜作製のための条件出しなどを行ってきた。さらに昨年度、機械振動子の計測応用として、核音響共鳴測定に関する予備実験の結果を得たが、それらを発展させるための素子作製、評価などを行ってきた。本年度は、立ち上げた成膜装置を用いた実際のサンプル作製を進め、核スピン計測などを踏まえた実際の物理計測をデモンストレーションする予定である。
2: おおむね順調に進展している
2018年度に調達した成膜装置関連装置は6月までにそろえることができ、装置を組み合わせて立ち上げを行った。具体的には、調達した真空チャンバーに真空装置、イオンガン、成膜セル、温度制御PID装置、酸化膜作製用のガス導入マスフロー制御装置、イオンガンなどを組み合わせ、適切な動作確認を行った。動作確認後、安定したレートで成膜を行うための蒸着セルなどの温度制御プログラムなどを作製し、るつぼを破損せず蒸着するための温度制御、成膜条件などの条件出しを行い、より良い成膜の条件探査を行っている。また昨年度より機械振動子を用いた高感度な物理計測応用である核音響共鳴の測定は核スピンと機械振動子(音波)が相互作用するモデルを数値計算によって解析し、どのような実験でどのように核スピンの計測が可能かを見積もるなどした。またその知見をベースにデバイス設計、作製ならびに冷凍機で測定を行う際に必要となるサンプルホルダー作製、サンプル基板の設計製作などを行った。本研究では、超伝導量子回路を駆使して機械振動子を中心とした低温での物理計測感度を向上させることが目的である。超伝導量子回路の性能評価の一環として量子電気標準と関連した精密電気計測に取り組んでおり、低温における抵抗の精密測定装置の開発やそのデモンストレーションでも成果を得て外部発表などを行っている。
2020年度は昨年度に引き続き新規に導入した成膜装置の試作による条件出しを継続し、成膜の品質向上を目指していく。作製したジョセフソン接合並びにSQUIDなど動作測定ならびにマイクロ波共振器などと結合させた際の動作特性の検証を有限要素法数値計算ならびに低温測定の両面から行う。低温測定はグループで所有しているHe3冷凍機、希釈冷凍機を用いて行う。また機械振動子を用いた核スピンの計測実験、超伝導量子回路を用いた精密電気測定実験に関しても昨年度に継続して研究を行う。前者に関しては、昨年度作製したデバイスをHe3冷凍機で冷却し磁場をかけた際、共振周波数ならびにQ値がNMR共振周波数でどのように変調を受けるかを実験的に調べる。また精密電気測定に関して、量子超伝導回路をヌル検出器として用いたホイートストンブリッジ回路などを用いて超伝導回路の動作性能評価などを行う。
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Applied Physics Letters
巻: 116 ページ: 143101
10.1063/1.5145172