研究課題
申請者はこれまでに、半導体量子ドットを機械振動子と結合させた複合構造の研究に取り組み、10 fmという極めて小さな振動振幅の検出に成功するとともに、量子ドット中の電子状態がマクロなスケールの振動子の運動に作用する現象を世界で始めて観測した。一方検出感度を律速していたのは、素子そのものではなく初段で微小な電流信号を増幅している低温電流増幅回路であったことが判明している。本研究では、この部分を改善させるため超伝導量子回路と融合し、半導体機械振動子の持つ可能性を向上させる基盤を開発する。2020年度の研究として、2018年度、機械振動子の計測応用として、核音響共鳴測定に関する予備実験の結果を得たが、それらを発展させるために理論計算に基づく素子設計・作製、測定系構築を行った。具体的には2018年の実験時に核スピンと機械振動子の共振周波数が不一致であったために振動子を利用した核スピン検出がうまくいかなかった点を改善するために、機械振動子の共振周波数を高周波数化し、共鳴状態を作り出す素子を開発した。現在、電気機械振動子を用いて核スピン計測実際の物理計測をデモンストレーションする実験に取り組んでおり、本年度は成果発表まで発展させる計画である。また、精密抵抗測定などを通じて超伝導低温電流増幅回路の性能実証実験を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
2018年に機械振動子を用いて核スピンを制御する成果を得たが、振動子の状態を介して核スピン検出することはできなかった。この原因は機械振動子と核スピンの周波数がオフレゾナンスであり、うまく相互作用が機能しなかったためである。オンレゾナンスな相互作用を実現するには、従来よりも高い共振周波数を有する機械振動子を作成する必要があった。高周波化のために従来の両持ち梁構造の振動子では難しく、レイリー波やラム波と呼ばれる音波を利用した振動子構造を開発する必要があった。昨年度より機械振動子を用いた高感度な物理計測応用である核音響共鳴の測定は核スピンと機械振動子(音波)が相互作用するモデルを数値計算によって解析し、どのような実験でどのように核スピンの計測が可能かを見積もるなどした。またその知見をベースにデバイス設計、作製ならびに冷凍機で測定を行う際に必要となるサンプルホルダー作製、サンプル基板の設計製作などを行ってきた。本研究では、超伝導量子回路を駆使して機械振動子を中心とした低温での物理計測感度を向上させることが目的である。超伝導量子回路の性能評価の一環として量子電気標準と関連した精密電気計測に取り組んでおり、低温における量子化抵抗の精密測定装置の開発やそのデモンストレーションでも成果を得て外部発表などを行っている。
昨年度に続き機械振動子を用いた核スピンの計測実験、超伝導量子回路を用いた精密電気測定実験に関しても昨年度に継続して研究を行う。前者に関しては、すでに素子の設計・作製・評価を終え音波を用いた核スピン検出に向けた実験をスタートできている。本年度は音波を用いて核スピンを検出する信号を取らえ原理実証するデータを取得することを目的としている。。また精密電気測定に関して、超伝導量子干渉計を用いた極低温電流比較器の開発を通じて微小電流を低温で増幅し、量子化抵抗を8桁精度で測定するなど成果を得ている。本年度はさらに量子超伝導回路をヌル検出器として用いたホイートストンブリッジ回路などを用いてさらに感度を高めた実証実験に取り組む。
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Applied Physics Letters
巻: 116 ページ: 143101
10.1063/1.5145172