申請者はこれまでに、半導体量子ドットを機械振動子と結合させた複合構造の研究に取り組み、10 fmという極めて小さな振動振幅の検出に成功するとともに、量子ドット中の電子状態がマクロなスケールの振動子の運動に作用する現象を世界で始めて観測した。一方検出感度を律速していたのは、素子そのものではなく初段で微小な電流信号を増幅している低温電流増幅回路であったことが判明している。本研究では、この部分を改善させるため超伝導量子回路と融合し、半導体機械振動子の持つ可能性を向上させる基盤を開発する。2018年度、機械振動子の計測応用として、核音響共鳴測定に関する予備実験の結果を得たが、それらを発展させるために理論計算に基づく素子設計・作製、測定系構築を行った。具体的には2018年の実験時に核スピンと機械振動子の共振周波数が不一致であったために振動子を利用した核スピン検出がうまくいかなかった点を改善するために、機械振動子の共振周波数を高周波数化し、共鳴状態を作り出す素子を開発した。2021年度には、実際に電気機械振動子の素子作製を行い、冷凍機で測定を行った。機械振動子としての動作を確認することはできたものの、核スピンに由来する信号を検出することはできなかった。この原因は、電気機械振動子のQ値が設計よりも小さく、十分な信号強度を達成できなかったためであると結論し、その欠点を修正するようなデバイス設計を行った。また本科研費で発展させた研究成果を含む電気機械振動子研究のレビューを書籍として執筆し出版した。
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