研究課題
本研究の第一の目的は、磁場回転に伴う磁気熱量効果を精密に測定し、エントロピーの磁場角度依存性を従来よりも高速かつ高分解能に測定できる手法を確立することにある。準断熱環境下で磁場回転や磁場掃引に伴う磁気熱量効果を精密測定できる熱量計を開発し、ベンチマークとしてスピンアイス物質Dy2Ti2O7の磁場角度分解エントロピー測定を行った。その結果、スピンフリップ転移の角度依存性を高精度に検出することに成功し、モンテカルロ数値計算結果とも良く一致するエントロピーの測定結果を得た。装置開発および測定結果の詳細をまとめた論文はJ. Phys. Soc. Jpn.誌で公表した。さらに、スピンアイス状態においてKasteleyn転移の観測を目指して磁場回転実験を行ったところ、極低温・低磁場ではDy2Ti2O7が強い非平衡状態にあり、磁気熱量効果ではなく磁場変化に伴う放熱現象が生じることを見出した。本研究の第二の目的は、開発した装置を様々なフラストレート磁性体の研究に応用して新たな知見を得ることにある。広島大学のグループとの共同研究から、擬カゴメ近藤格子CeIrSnにおいてフラストレーション効果に起因したメタ磁性異常を見出した。この流れの中で、同じ結晶構造を持ち、類似のメタ磁性を示すCeRhSnに着目した。先行研究により、CeRhSnではゼロ磁場での量子臨界性が報告されており、その起源がフラストレーションに由来する可能性が指摘されている。本系は磁場でエントロピーが大きく変化し、強いイジング異方性を示すため、磁場角度分解比熱・エントロピー測定が有効であると判断し、CeRhSnの比熱・エントロピー測定を行った。その結果、擬カゴメ格子面近傍のごく狭い磁場角度範囲で高磁場まで量子臨界性が保たれる予想外の現象を見出した。結果の詳細は日本物理学会で発表した。
2: おおむね順調に進展している
第一の目的であるエントロピーの磁場角度依存性を従来よりも高速かつ高分解能に測定できる装置の開発に成功した。さらに、本装置をDy2Ti2O7とCeRhSnの研究に応用して、新奇現象を見出した。装置開発の論文はJ. Phys. Soc. Jpn.誌で発表し、今後の研究発展が期待できる新測定法として高い評価を受けている。本測定技術の開発後、様々な方との議論の中で、本装置の強みを発揮できる研究課題が数多く生まれており、本研究は順調に進展している。
今後は開発した装置を様々なフラストレート磁性体の研究に応用し、新たな知見を得る。まずは、昨年度末に行ったCeRhSnにおける量子臨界性の磁場角度依存性の測定結果を論文にまとめて発表する。第二に、昨年度に見出したDy2Ti2O7の磁場中非平衡状態について磁場回転下での磁化測定を行い、磁気モノポール励起現象の実態に迫る。第三にYb2Ti2O7の比熱・エントロピーの磁場角度依存性を測定し、低エネルギー励起構造を決定する。量子スピン液体を特徴づける実験事実の提供を目指す。また、フラストレート磁性体に限らず、本装置の強みを活かせる研究課題に幅広く取り組む。重要な研究成果が得られつつあるので、国際会議や研究会には積極的に参加して発表・議論を行う。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
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