研究課題/領域番号 |
18H01163
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小濱 芳允 東京大学, 物性研究所, 准教授 (90447524)
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研究分担者 |
井原 慶彦 北海道大学, 理学研究院, 講師 (80598491)
黒江 晴彦 上智大学, 理工学部, 准教授 (40296885)
橘 信 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (40442727)
神原 陽一 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (50524055)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 強磁場 / NMR / ラマン分光 / 熱測定 / 電気抵抗 |
研究実績の概要 |
本研究の目標は、1.『NMR測定手法をパルス磁場下で整備すること』、2.『ラマン測定系を、パルス磁場下測定に向け改良すること』3.『パルス磁場下での比熱および非接触電気抵抗測定手法を用い、強磁場下で新奇現象を発見すること』である。2018年度はこれらの目標をいずれも遂行し、想像以上の成果を挙げた。 たとえば目標の一つであった、『NMR測定手法をパルス磁場下で整備すること』については、準定常パルス磁場技術を応用することで、NMRスペクトルを45Tを超える強磁場まで観測することに成功した。さらにスピン格子緩和時間についても、パルス磁場下NMRで世界で初めて観測できた。これらの開発により、日本のパルス磁場下NMR技術は大きく進歩したと考えられ、世界的にもトップレベルに達したのは間違いない。日本の強磁場物理の歴史においても快挙であり、将来的に大きな研究プラットフォームを拓いたといえる。 2つ目の目標の『ラマン測定系の改良』も順調である。ラマンはそもそも測定に時間がかかる手法でありパルス磁場との相性は良くない。このため、抜本的なシステムの変更などが必須であった。幾つかのテストを済ませており、順調といえる。 最後の目標の『比熱および非接触電気抵抗測定手法を用い、強磁場下での新奇現象の発見』は目に見える成果が上がっている。特にパルス磁場下比熱測定は、ここ最近完成した手法であったが、多くの成果を挙げることができた。例えば重い電子化合物を対象にした研究では、PRLを含む3つの論文が出ている。また類似の熱測定技術によっても成果を出ており、これらの成果はどちらもPRL誌で発表された。非接触電気抵抗測定はトポロジカル絶縁体の研究などに用いられた。伝導測定は、他にも鉄系超伝導体などにも適応されNaturePhysics誌などに発表されている。高いインパクトを集める成果を多く発表できたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度は、パルス磁場下でのNMR測定に成功した。非常に困難と思われていた課題であり、2018年度で完了するとは考えていなかったため、計画以上に進展したといえる。これは大変大きな成果であり、新たな研究領域の開拓に成功したといえる。ラマン測定については測定系の改良が進んだ。例えば、パルスマグネットでラマン散乱を測定する際には、1.細長い光学系が必要であり、2.リジットな光学系であることが望まれ、3.光学系からの反射光を逃がすセットアップが必要となる。これらの3つの課題を克服するために、光ファイバー・バンドルとGRIN レンズを用いた新奇な光学系を試作した。このセットアップについても、動作確認は完了しており、初年度の段階において十分な成果といえる。 開発が完了しているパルス磁場下での比熱測定技術については、多くの成果が得られた。例えばPRL誌を含む3報の論文を発表できており、今後も定常的な成果が期待できる。類似の技術である磁気熱量効果などの測定も進めることが出来ており、これについても2報のPRL誌が発表され、計画以上に進展している。また、非接触電気抵抗測定を中心としたトランスポート測定も成果を挙げている。トポロジカル絶縁体の量子振動測定などで成果が上がっており、Nature Physics誌などの高いインパクトを持つ論文が得られている。 最終的に2018年度は、代表の小濱と分担の井原、黒江、神原、橘により関連する17報の論文が発表された。(Nature Physics誌1報、Phys. Rev. Lett.誌3報、Phys.Rev.B誌8報など)他にも16回の学会発表も行われた。総じて期待以上の成果といえ、本申請は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は『1.NMRおよびラマン分光測定手法のパルス磁場下での確立』を更に進めつつ、『2.パルス磁場下での比熱および非接触電気抵抗測定手法を用いた、強磁場下での新奇現象の発見』を推進していく。NMRについては、2018年度は45テスラまでのNMRスペクトル測定が可能になった。これを2019年度は、分担者の井原と良く協力することで、60テスラまで測定可能とすることを目標とする。また、NMR法によるスピン格子緩和時間(T1)の測定については、長時間磁場が発生できるロングパルス磁石の整備による改良が望ましく、これは2019年度の後期から進めていく。ラマン分光測定手法については、さらなる測定精度の改良がパルス磁場への応用の為には必須となる。2019年度は分担者の黒江と共同してこれを強力に進めていく。 熱測定、非接触電気抵抗測定についての測定技術は既に確立したといってよい。これらについては物理的にトピックスとなっている系で研究を進め、磁場誘起新奇相の発見を狙っていく。比熱測定の対象となる物質は、重い電子系化合物から超伝導体、そして磁性体と幅広い。例えば、Sr2Cu(BO3)2などのスピンギャップ系化合物、CeRhIn5のような重い電子化合物は良い候補と言える。一方、電気抵抗測定については比熱測定でカバーしずらい半金属なども研究対象となる。これらの測定手法を相補的に組み合わせることで、多くの研究領域をカバーでき、多彩な磁場誘起相についての知見が得られると期待している。最終的には、NMRおよびラマン分光測定の開発の進展具合によるが、『NMR、ラマン、比熱、電気抵抗という4つの強磁場測定手法を組み合わせ、新たな磁場誘起相の発見』を目指す。
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