研究課題
スピンアイス化合物Dy2Ti2O7では,[111]軸方向の磁場約0.9Tでアイスルールを破る気相液相転移を示すことが知られている.先行研究によれば、この1次転移は絶対零度の極限でも0.5T程度の有限の幅を持ち,その起源が不明であった.もし本質的な幅を持てば,量子効果により対称性の破れたモノポール超固体相が実現している可能性がある.そこで気相液相転移の本質的な転移幅を決定するために,磁場方位を正確に[111]軸に合わせるとともに,反磁場分布の影響をなくすために試料を球状に加工した試料で精密な極低温磁化測定を行った.球状加工には,ボンド法と呼ばれる,試料を高速回転させながら研磨する装置を自作して用いた.この方法では,試料を直径が0.5mm程度の真球に加工することが可能である.その結果,球状試料では,これまでの薄板状試料(平均の反磁場係数0.05)と比較して,転移幅が1/20以下に劇的に減少することがわかった.すなわち,薄板状試料では面に平行(反磁場係数が最も小さい方向)に磁場をかけた場合でも,反磁場の分布が転移磁場に影響していることがわかった.今回の結果は,Dy2Ti2O7においてはモノポール超固体相は存在せず,古典スピンアイスとして理解できることを示している.EuPtSiについては,スキルミオン相が[111]磁場方向には現れるが,[110]や[211]方向には現れないことがこれまでにわかった.この理由について考察した結果,この系が12個の等価な秩序波数ベクトルを持つこと,およびそれらの対称性で理解できることがわかった.
2: おおむね順調に進展している
対称性の破れを磁化測定から調べる上で,試料の形状による反磁場分布の影響が問題となることが認識できた.さらに,この影響を避けるために,試料を球状に加工する手段を確立できたことは大きな前進であると考えている.
研究を遂行する上で特段の問題点はないが,今現在,新型コロナウィルスへの対応で実験が行えない状況が続いている.早急な再開を期待する.再開できれば,Dy2Ti2O7については組成の異なる試料で確認の実験を行う.また,単結晶Biの対称性の破れの検証実験を行う.
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