研究実績の概要 |
今年度は作製した三軸回転機構の性能を確認するために、まずスピンアイス化合物Ho2Ti2O7の(1-10)面内の回転磁場下の磁化測定を行った。立方晶のHo2Ti2O7はスピンアイス物質特有の磁気異方性を示すことが知られている。およそ1.5 T以下の低磁場では磁化の大きさが[100], [110], [111]方向の順に小さくなるが、約2 Tでアイスルールを破るスピンフリップが[111]方向で起こり、これ以上の磁場では異方性が[100], [111], [110]の順へと変化するはずである。測定は、温度0.3 Kにおいて磁場1 T~3 Tの範囲で行った。その結果、期待どおりの磁気異方性が観測され、また[111]磁場方向のスピンフリップがこの温度では1次転移になっていることが確認された。
続いて、半金属Biにおける対称性の破れを検証する実験を行った。Biのフェルミ面は3回軸の回りに対称に3つの葉巻型の電子ポケットを有するのが特徴で、3つのバレー自由度がある。最近、磁場中の電気抵抗測定から、約40 K以下の低温磁場中で3回軸の対称性が破れていることが報告され、クーロン相互作用によりバレー占有数が不均衡となるバレーネマチック転移が起きている可能性が指摘された。これを熱力学量で検証するために、3回軸のまわりで磁場回転による磁化測定を行った。測定は温度2 Kにてトルクモードで行った結果、明瞭な3回振動の角度依存性が観測され、対称性の破れは見られなかった。
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