研究課題
近年になって、ワイル磁性体やキタエフ磁性体、スキルミオン物質など、新しい磁気状態を有する物質群が数多く報告されている。これらの状態を理解する上で、磁気信号の可視化が非常に重要であるが、従来の磁気顕微鏡では「空間分解能もしくは磁気感度が足りない」という問題があった。そこで本研究では、磁気感度の優れた3軸磁気センサーと空間分解能の高い走査型トンネル顕微鏡を組み合わせた「3D-SQUID-STM複合型顕微鏡」を開発し、微弱な磁気信号の空間分布を視覚的に把握できるように取り組んだ。本システムを構築する上で、主に(1)高磁気感度のSQUID素子、(2)超精密な走査システム、(3)STMのヘッドおよび(4)軟磁性体の針を用意する必要がある。(1)に関しては、昨年度から金沢工業大学との共同研究を開始していたが、本年度の途中で所属が変わってしまったため、共同研究を途中で打ち切らざるを得なかった。来年度は再度、金沢工大と共同研究を結び、SQUID素子の開発に取り組む予定である。(2)に関しては、Scanner(微動)部分とPositioner(粗動)部分の両方が必要になる。昨年度はScanner部分を購入していたが、今年度はPositioner部分の購入及び開発に取り組んでほぼ完成している。(3)と(4)に関しては、現在までに設計などを開始しているが、STMのヘッド部分の自作や軟磁性体の探針の加工は非常に難しい作業なので、思った以上に時間がかかっている。次年度も引き続き開発を行い、これら4つの部品が揃い次第、SQUID・STM複合型顕微鏡システム全体の構築を進める予定である。構築後には、対象物質の磁気状態の空間マッピングも行うつもりである。
3: やや遅れている
上記(研究実績の概要)で報告した通り、極低温SQUID・STM複合型顕微鏡の構築に取り組んでいる。このような顕微鏡は世の中に存在しないので、その開発は非常に困難である。開発は予定より少しばかり遅れているが、十分に挽回できる程度の遅れであり、次年度中にはほぼ完成させられると考えている。
過去2年間で、必要な装置を全て購入済みである。次年度中にシステム全体を完成させる予定である。問題となるSTMシステムに関しては、研究協力者の指導のもと、下澤が中心となって立ち上げる。STMヘッド部分の自作や軟磁性体の探針の加工は非常に難しい作業のため、時間がかかっているが、これまでに研究協力者は磁性体の探針を用いたスピン偏極STMの開発に成功しており、本研究におけるSTMシステムの開発も支障ないと思われる。
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J. Phys.: Condens. Matter
巻: 32 ページ: 074001
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-648X/ab50e9