研究課題
機能的な磁性物質を理解する上で、磁気信号の可視化が非常に重要であり、磁気顕微鏡の重要性が浮き彫りになりつつなる。本年度は、開発した磁気顕微鏡を用いて、強トロイダル金属UNi4B特有の電流誘起磁化を観測することで、トロイダルドメインが存在する可能性を明らかにした。電流誘起磁化はトロイダルモーメントと電流の外積で決まるので、トロイダルモーメントが反転すると電流誘起磁化も反転する。それゆえ、トロイダルドメインが存在する場合には、電流誘起磁化にも空間分布が現れることが期待される。SQUID顕微鏡による局所磁化測定を行ったところ、トロイダルドメイン境界に起因する磁化の符号反転が見られた。このドメイン境界は、試料の縦方向にも横方向にも伸びているので、通常のアンペールの法則では説明できない。今回の結果から、ドメインサイズは400 μm角程度、ドメイン1つあたりの磁化の大きさは300 μT程度であることが分かった。このように見積もると、先行研究のバルク試料で観測されていた電流誘起磁化の大きさが試料サイズに強く依存することも自然に説明できる。さらに本研究では、上記で観測されたUNi4Bのトロイダルドメインを外部パラメータで制御可能かどうか明らかにするために、電流と磁場の双方が電流誘起磁化を起源とする「電流誘起Hall効果」に与える影響を調べた。強トロイダル絶縁体の場合、電場と磁場を同時に印加することでトロイダルモーメントの向きが反転するので、電流の流れる金属でも電流と磁場を同時に印加することで電流誘起Hall効果の符号変化が予想される。実際に磁場を印加して電流誘起Hall効果を調べたところ、ゼロ磁場では見られなかったHall成分が現れ、それが電流と磁場の奇関数であることが分かった。この結果は、トロイダルモーメントを電流と磁場でコントロールできる可能性を示している。
2: おおむね順調に進展している
上記(研究実績の概要)で報告した通り、磁気顕微鏡による局所磁化測定を用いて、強トロイダル金属特有の現象を明らかにすることに成功した。さらに、磁場中での電流誘起ホール効果測定から、トロイダルドメインを制御することができる可能性も明らかにした。いずれの結果も、これまでにない研究成果であり、順調であると言える。
本年度は電流と磁場でトロイダルドメインを制御可能である確固たる証拠を掴むために、磁場中での局所磁化測定を行う予定である。それと同時に、測定システム全体の改善を行う予定である。
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Phys. Rev. X
巻: 10 ページ: 041059
10.1103/PhysRevX.10.041059
Phys. Rev. B
巻: 102 ページ: 165154
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