走査型ラマン顕微鏡を用いて、遷移金属ダイカルコゲナイドIrTe2微小結晶において、試料サイズに依存した一次相転移ダイナミクスの確率的な振舞いの実空間観測を行った。 試料#1(体積:160um3)を300Kから冷却すると、270Kで試料中に電荷秩序相のドメインが形成された。同じ測定を3回繰り返したところ、電荷秩序ドメインが形成され始める場所はほぼ一致し、核生成が起こる確率が高い場所と低い場所が試料中で分布していることが分かった。この結果は、さらに小さい試料サイズにおいては核生成確率が高い場所が試料中に含まれない可能性があることを示唆しており、実際に試料#2(体積:22um3)では270Kで100時間以上相転移の開始が確認されなかった。次に、試料#1において270Kで相転移が進行する様子を調べたところ、電荷秩序ドメインが徐々に広がっていく時間帯と、急激に広がる時間帯が不規則に並ぶことが分かった。同じ条件での繰り返し測定において、電荷秩序ドメインの時間発展は異なっており、核成長に確率的な現象が寄与していることが示された。以上のように、微小試料の一次相転移ダイナミクスは、統計的な期待値とは異なり確率的な振舞いを示し、この挙動が微小結晶の徐冷下における超伝導の発現に関連することが明らかとなった。 また、可視化されたドメイン構造は特定の結晶軸に沿った形でドメイン壁を有しており、ドメイン形成に強い歪み場の影響があることが分かった。超伝導相の任意書き込みに向けては、構造相転移に伴う歪み場の影響の小さいものを選択する必要がある。
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