研究課題/領域番号 |
18H01170
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福山 寛 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00181298)
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研究分担者 |
村川 智 東京大学, 低温科学研究センター, 准教授 (90432004)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 量子液晶 / 超固体 / 単原子層 / 量子スピン液体 |
研究実績の概要 |
2016年に発表した論文で、我々は、グラファイト上に吸着した2層目ヘリウム(He)の単原子層に、ボース粒子の4Heの場合でもフェルミ粒子の3Heの場合でも、低密度の液相と高密度の不整合固相の中間密度域に新奇な局在相が存在し、それが物質の新たな状態「量子液晶」であることを主張した。そして、その構造の有力候補として「量子ヘキサティック相」を提案した。 この主張の当否を明らかにするため、本研究では、同一試料に対して比熱とねじれ振り子応答を同時測定できる装置を開発してきた。前者は相を確実に同定でき、後者は超流動密度を直接検出できるからである。今年度は次の3つの装置改良を行い、本研究の目的を達成できる性能を最終的に得ることができた:(1) セルごく近傍の配線・配管を見直し、ねじれ振り子共鳴の安定度を上げた。(2) 高純度アルミナ製セル断熱支持棒と併用する銅細線の熱リンクの熱伝導度を再調整して、セルの最低到達温度を60 mKから30 mKに改善し、より低温から同時測定ができるようにした。(3) 冷却のための希釈冷凍機が、連続運転開始後3ー4週間で3He循環ラインに閉塞を生ずる問題が顕在化したので、液体Heベッセル中の液面直上に設置するコールドトラップを製作して、連続運転時間の長期化を図った。 この装置を使って、これまでに2層目4Heの気相から液相に到る密度範囲で10試料の測定を終え、気液の共存域が過ぎて試料が一様液体になると同時に超流動密度が試料密度と共に線型増加する様子を捉えることに成功した。これは原子レベルで平坦な2次元4Heの液体相が超流動性を確かに示すことを、相同定の曖昧さなく初めて示した実験結果である。今後は、いよいよ新奇量子相の密度域の測定に向かう予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
比熱とねじれ振り子の同時測定セルの最低測定温度を決める銅細線熱リンクの熱伝導度の最適化に際し、銀製タブ部の接触抵抗や銅線部の電気抵抗を極低温で実測し、設計通りの熱伝導度を実現できたことで、最低温度を60mKから30 mKに拡張できた。これによって観測できる超流動密度が増加し、より精度の高い超流動相図の策定が可能となった。今後の新奇量子相や固体相の超流動性(前者は超流動液晶、後者は超固体に対応)の有無を決定してゆく上で重要な進展である。実際、これまで測定した10試料のデータの再現性と質は満足できるものであり、来年度実施する4He新奇量子相密度域の測定でどのような結果が得られるか、大変興味深い。 希釈冷凍機の3He循環ラインに液体He温度のコールドトラップを設置した改良は連続運転期間の大きな伸延にはつながらなかったが、2週間程度延びたことで試料を一から作り直す頻度が減り、より系統的な測定ができるようになったことは一定の進展である。希釈冷凍機が閉塞すると、冷凍機全体を10ー60 Kまで昇温してクリーニングする必要があり、その都度、試料4Heを排気して真空状態にしたねじれ振り子共鳴周波数の温度依存性を測定し直す必要があるからである。 一方、3Heの新奇量子相の帯磁率測定の準備は、一旦組み立てたNMR測定用試料セルに真空リークが見つかるなど進捗が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の後半から比熱とねじれ振り子の同時測定セルの実験は本格的な測定体制に入ることができたので、来年度はこれをできるだけそのまま続行したい。最も重要な密度域の測定が控えているからである。 ところが、猛威を振るっている新型コロナ禍への対応策として、現在、東京大学では活動制限の措置が取られている。こうした条件下で、どのように測定を続行できるか新たな取り組みが必要となる。測定はできるだけ少人数で行い、実験室に滞在する人数を減らす必要があることは勿論のこと、大学ネットワークのセキュリティ要件を満たしつつ、インターネットを通じた実験装置の遠隔制御システムを構築する必要があると考えている。ただし、この場合でも、ガスハンドリングシステムを使って試料密度を頻繁に変更する作業を遠隔操作することは恐らく困難であり、ここが測定の歩留まりを律速するであろう。 3Heの新奇量子相の帯磁率測定については、冷却に用いる核断熱消磁冷凍機の移設も含め、研究体制を精査し、測定の立ち上げを急ぎたい。
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