研究課題/領域番号 |
18H01172
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
松林 和幸 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (10451890)
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研究分担者 |
片山 尚幸 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (50623758)
北川 健太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 講師 (90567661)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 励起子 / 超伝導 / 圧力効果 / 量子臨界現象 |
研究実績の概要 |
本課題では、高圧力印加による半導体-半金属転移近傍で出現する励起子相やその相転移が抑制された領域で出現する超伝導が互いにどのように影響しているかを実験的に明らかにすることを目的としている。令和元年度は、電子と正孔による励起子相が実現している有力な候補物質であるTa2NiSe5において、10 GPaを超えた高圧域までの精密な電気抵抗測定を行い、詳細な超伝導相図を明らかにすることに成功した。また、超伝導特性に関する新たな知見として、上部臨界磁場の異方性が小さいことを見出した。一方、常圧も含む低圧領域では擬一次元構造を反映し、電気伝導性は大きな異方性を示すことから、超伝導を示す高圧領域に近づくにつれて系の次元性が変化した可能性があることを示唆する。 本課題の目的を達成するための新たな研究対象物質として、圧力印加による半導体-半金属転移近傍で超伝導を示すBiS2系層状化合物LaOBiPbS3およびLa2O2Bi3AgS6に対して、高圧下でのホール効果と熱電能測定を行った。その結果、圧力誘起超伝導が出現する臨界圧力に向かって、ホール係数および熱電能で観測されるギャップ的な異常が低温側へと抑制されることを見出した。前述の異常は半導体から半金属領域まで連続的に存在しており、従来から議論されてきた電荷密度波の形成とは異なる起源の可能性が示唆される。興味深いことに、これらのBiS2系物質の温度-圧力相図は、Ta2NiSe5におけるものと類似しており、今後のより詳細な比較研究を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高圧力発生技術の向上により、10GPaを超える高圧力が安定的に発生と精密な圧力制御が可能となったことで、Ta2NiSe5の高圧相において励起子相を示唆する異常が消失する領域を中心として圧力誘起超伝導相がドーム状に出現することを実験的に明らかにすることができた。さらに超伝導特性に関して、上部臨界磁場の異方性が小さいという特徴も明らかとなった。また、Ta2NiSe5とBiS2系層状化合物の温度-圧力相図にいくつかの類似点が見出されたことから、半導体-半金属境界領域における超伝導出現という観点で、その背後に潜む共通した物理が存在する可能性も示唆される。また、高圧下での測定手法を拡充すべく行った比熱や熱電能法の開発も着実に進展し、研究目標の達成に向けておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
Ta2NiSe5と類似構造を有するTa2NiS5に対するホール効果、熱電能測定を常圧および高圧下において行い、励起子相の形成にともなって種々の物理量が示す異常の特徴を明らかにする。BiS2系層状物質については、これまでの開発で培った高圧下比熱測定法のノウハウを駆使しながら、圧力誘起超伝導が出現する高圧域における詳細な比熱の温度依存性を測定し、超伝導ギャップに関する情報を得る。これらの一連の物質群における包括的な相図を完成させることで、その普遍性と特殊性を明らかにする。特に令和2年度は最終年度であるため、これまでの成果を論文としてまとめる。
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