本研究代表者らは、最近スピン液体候補物質Ba3ZnRu2O9を発見した。そして、この物質の磁性を担うRu2O9二量体の中では、二量体間・二量体内の反強磁性相互作用が競合し磁気秩序が抑制されているのではないかということを提案した。本申請研究は、相互作用の競合が生み出す新しいタイプのスピン液体を探索し、上の提案を検証するものである。 ZnサイトをCaで置き換えたBa3CaRu2O9ではRu二量体が一重項をつくって非磁性となる。この系のRuをNbで部分置換した試料の磁化の詳細な解析の結果、これまで相互作用はないと思われていたRu一重項の相互作用が数Kとわかった。さらにCaをSrに全置換した試料において同様の解析をすすめたところ、相互作用はさらに弱いが有限であることがわかった。またNbを高濃度に置換した試料ではRuイオンの常磁性成分が増加することによって系がスピン液体に近づいていることが推論された。 Ba3ZnRu2O9の磁性を明らかにするためにμSR測定を行ったところ、解釈できない弱い長距離磁気秩序が観測された。秩序化しているスピンの体積分率は40%程度であり、残り60%程度のスピンは最低温でも揺らいだ液体状態にあり、磁気秩序とスピン液体が共存している。この結果の物理的解釈にはさらなる実験が必要であるが、理論的に示唆されたスピン多極子秩序と定性的に矛盾しないことがわかった。 Ba3Zn(Ru1-xNbx)2O9の粉末中性子回折を行ったところ、核反射強度が弱い3つの反射について、非常に弱い磁気反射を観測した。 この先の研究に必要な単結晶作成にも挑戦し、ZnOるつぼを使うことによって1ミリ以下の単結晶の成長に成功したが磁気測定にたえる大きさの試料を得るには至らなかった。
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