研究課題/領域番号 |
18H01174
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
出口 和彦 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (40397584)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 強相関電子系 / 低温物性 / 磁性 / 超伝導 / 準結晶 / 近似結晶 / 量子臨界現象 |
研究実績の概要 |
希土類元素の両端に位置するCeやYb、アクチナイド元素のUなどを含む結晶では、重い電子の形成、エキゾチックな磁気秩序や異方的超伝導など多様な秩序状態、価数揺動に伴う興味ある現象・強相関電子物性が観測されている。特に近年、Ybを含む強相関物質の結晶で非従来型の量子臨界現象とそれに関連した磁性・超伝導について精力的に研究が進められてきた。圧力・磁場・元素置換などをパラメタ―とした物性制御が精力的に行われる中、我々はこれまで大前提として考えられていた周期性に着目し、強相関電子系における並進対称性の役割の研究を進めた。 (1)Au-Al-Yb準結晶と近似結晶について、中性子非弾性散乱実験を極低温まで行い、臨界指数・スケーリングから準結晶の量子臨界現象の性質について調べた。その結果、波数Qと温度Tに依存しないE/Tスケーリングが成り立ち、磁化、交流磁化率、比熱の極低温における温度依存性を説明するような臨界指数をもつことが明らかとなった。 (2)Tsai型クラスター構造をもつAu-Ge-Yb近似結晶の超伝導(この結果はJ.Phys.Soc.Jpn.に掲載され"Paper of Editors' Choice"(注目論文)に選ばれた。)が準結晶の超伝導の発見につながったことにより、日本物理学会第26回論文賞を受賞した。また、準結晶の超伝導の発見はPhysics Worldで取り上げられ、“Physics World 2018 Breakthrough of the Year”に選出された。 (3)元素置換によりYbの磁性を制御することが可能になった。さらに、高次元の格子定数を用いて、Tsai型クラスター構造をもつYb系準結晶・近似結晶の磁性が整理できることがわかった。この結果はScientific Reportsに掲載され、プレスリリースされた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ybを含むTsai型のクラスター構造をもつ新しい強相関電子系の準結晶・近似結晶の磁性に着目して、元素置換などをパラメタ―とした物性制御を試みた。その結果、Yb以外の元素置換によりYbの磁性を制御することが可能になった。さらに、高次元の格子定数を用いて、Tsai型クラスター構造をもつYb系準結晶・近似結晶の磁性が整理できることがわかった。補空間を用いた高次元の物理と準結晶・近似結晶の物性をつなぐ端緒となると考えられる。(この結果はScientific Reportsに掲載され、プレスリリースされた。)また、Au-Al-Yb系準結晶・近似結晶の中性子非弾性散乱実験を極低温まで行い、臨界指数・スケーリングから準結晶の量子臨界現象の性質について調べた。その結果、波数Qと温度Tに依存しないE/Tスケーリングが成り立ち、磁化、交流磁化率、比熱の極低温における温度依存性を説明するような臨界指数をもつことが明らかとなった。量子臨界現象を理解するための重要な手がかりとなると考えられる。超伝導については、Tsai型クラスター構造をもつAu-Ge-Yb近似結晶の超伝導が準結晶の超伝導の発見につながったことにより、日本物理学会第26回論文賞を受賞した。また、準結晶の超伝導の発見はPhysics Worldで取り上げられ、“Physics World 2018 Breakthrough of the Year”に“Superconductivity spotted in a quasicrystal”が選出された。以上のことからコロナ禍の影響は受けているが、研究計画は進捗していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)局在 f 電子に着目したAu-Al-Yb準結晶・近似結晶の磁性の研究 並進対称性が準周期である準結晶の結晶場については未だ明らかになっていない。Ybの価数が3価に近づくと局在スピン系の性質を示すことから、Au-Al-Yb準結晶・近似結晶の結晶場を観測する実験を佐藤卓教授(東北大学多元物質科学研究所:中性子散乱実験)のグループと共同で進める。また、磁性の起源であるYbを非磁性のLu, Yで置換して希釈することにより相互作用を切断し、単サイトの効果として結晶場を調べる。同時に「準結晶に特有の電子状態」と関係した量子臨界現象・磁性を調べるために相互作用を切って、Au-Al-Yb準結晶の基底状態として電子状態の「協力現象」について調べる。 (2)強相関電子系(近似)結晶に着目した新奇準結晶の開発 既存の強相関電子系の結晶の構造を調べてみると、2,3次元の準結晶の近似結晶になっているものが多く存在することがわかってきた。準結晶・近似結晶が属する共通の高次元結晶に面白い現象の共通の起源がある可能性を追求するために、近似結晶に対応する準結晶を開発することを試みる。価数揺らぎと磁気揺らぎとの関係をより深く追及するため、佐藤卓教授(東北大学多元物質科学研究所:中性子散乱実験)のグループと共同で中性子非弾性散乱の実験を押し進め、準結晶と結晶の差異・共通点という観点からAu-Al-Yb準結晶の量子臨界現象の分析を進める。
|