研究課題/領域番号 |
18H01178
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柳瀬 陽一 京都大学, 理学研究科, 教授 (70332575)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 熱力学的多極子 / 創発電磁応答 / 多極子超伝導 |
研究実績の概要 |
古典電磁気学における多極子展開は馴染み深い概念である。多極子モーメントは量子的な物質相においてもしばしば現れる。d電子系やf電子系では電荷とスピンに加えて軌道自由度があるため電子が多極子自由度を獲得する。それが自発的に秩序化する現象が多極子秩序である。また、局所的な空間反転対称性が欠如した結晶では電荷・スピン・軌道が副格子自由度と結合することで拡張多極子を形成する。拡張多極子系では空間反転対称性を自発的に破る奇パリティ多極子秩序が実現され、近年の注目を集めている。 しかし、周期結晶中の多極子モーメントを定義することは容易でない。古典電磁気学に従って定義すると、例えば磁気・電気四極子モーメントは座標演算子を含む形式になるが、座標演算子が結晶の周期性を満たさないためゲージ不変な定式化ができない。電気分極に関して同様の問題が古くから知られているが、そこでは断熱変形の方法によるベリー位相公式が成功を収めた。同様の手法を高次の多極子モーメントに適用する試みも行われたが、ゲージ不変な定式化には成功していない。そこで、私達は局所熱力学により結晶中の磁気単極子・四極子・トロイダル双極子モーメントを定義した。ここで定義された熱力学的多極子モーメントはゲージ不変であり、電気磁気感受率との間に熱力学的関係式を満たす。また、温度勾配が磁化を誘起する重力電気磁気効果にも直接的に影響する。今年度はさらに、熱力学的電気四極子の量子力学公式を得た。 このほかに、SrTiO3における「強誘電超伝導」を示した。特に、低密度領域では超伝導が強誘電秩序を引き起こすとともに、非従来型のスピン運動量ロッキングを示し、さらにはワイル超伝導を実現することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の具体的な手順として想定した内容のうち、① 奇パリティ多極子の群論的な分類学の完成、② 磁気点群の解析による候補物質の同定と分類、を終えた。また、③ 線形応答理論を用いた電磁応答の解明、については電気磁気効果、Edelstein効果、電流誘起多極子反転、磁気圧電効果の系統的分類を行い、それらが起こり得る対称性と候補物質を同定した。その理論的予言に基づいて、EuMnBi2において磁気圧電効果が実験的に発見された。また、今年度の研究において、幾つかの多極子モーメントに対して厳密な量子力学公式を得ることができた。その結果から、熱力学的に定義された多極子モーメントに物理的に重要な意義があることが判明した。これらの研究により学術上重要な成果が得られていることから、上記のように判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、これまでの線形応答に加えて、非線形応答および動的応答の研究を行う。また、昨年度までの研究において幾つかの多極子モーメントに対して厳密な量子力学公式を得たことを生かして、さらに多くの多極子モーメントに対して量子力学公式の導出を行い、その物理的意義を解明する。
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