研究課題
近年、近藤絶縁体において本来金属で期待される量子振動現象が観測され、トポロジカル表面状態や中性フェルミオンの存在が指摘されている。本研究で目的とするのは、特に中性フェルミオン励起に着目し、中性フェルミオンを実験的に検出するとともにその非自明な準粒子の示す物性現象を解明することである。本年度は典型的な近藤絶縁体であるYbB12において強磁場下での電気抵抗測定および磁気トルク測定を行った。その結果、電気抵抗ならびに磁気トルクにおいて量子振動を観測した。特に電気抵抗の量子振動の観測は近藤絶縁体ではじめてのものである。量子振動はフェルミ面の存在を示す証拠を与えるものであり、本来絶縁体では観測されない。さらに量子振動の角度依存性を調べ、フェルミ面が三次元的な性質を持つことを示した。これは量子振動が試料表面ではなくバルクに由来することを示している。以上の結果は電気的絶縁体においてフェルミ面が存在するという、従来の常識を覆す電子状態が実現していることを示すものである。さらに熱輸送および比熱測定により低エネルギー励起を調べることで、中性フェルミオン励起を示唆する残留比熱および残留熱伝導率を観測した。他の系における中性フェルミオン励起と比較するため、スピン系(磁性絶縁体)の量子スピン液体状態の研究を行った。量子スピン液体状態では、低エネルギースピン励起が中性フェルミオンとして振る舞うことが理論的に指摘されている。なかでも最近、中性マヨラナフェルミオン励起が期待されるキタエフ量子スピン液体の候補物質α-RuCl3において熱ホール効果測定を行い、熱伝導度の量子化を観測した。ここで観測された量子化値は量子ホール効果状態における値の半分であり、「半整数熱量子ホール効果」を観測した。この半整数量子化は中性マヨラナフェルミオンの直接的な証拠を与えるものである。
1: 当初の計画以上に進展している
量子振動が観測されたYbB12において低エネルギー励起を調べるために、熱輸送測定や比熱測定を行い、有限の残留比熱および残留熱伝導率を観測した。特に熱伝導率測定からは電子の場合に期待されるWiedemann-Franz則の破れを観測した。以上の結果は、中性フェルミオンの存在の証拠を与えるものである。一方で、熱ホール伝導度は小さく、現在のところ実験結果を説明する理論がないのが現状である。新しいタイプの中性フェルミオン励起が示唆される。何れにせよ、当初の計画どおりに(1)中性フェルミオン励起の検出、(2)中性フェルミオンによるフェルミ面の観測、に成功しており、計画は順調に進展していると言って良い。一方で、量子スピン系においてはスピンの分数化により現れる中性マヨラナフェルミオンおよび非可換エニオンの決定的な証拠を与える半整数熱量子ホール効果を世界で初めて観測した。中性マヨラナフェルミオンは提唱から80年以上未発見であった謎の粒子であり、非可換エニオンは量子コンピューターの基本構成要素として注目されている。これらエキゾチックな準粒子の確証を与える成果は当初計画にないものであり、想定以上に研究が進展していると結論付けられる。
残された課題は(1)近藤絶縁体における中性フェルミオンの起源の同定、および(2)普遍性の検証、である。(1) 主要な手法は熱ホール効果測定であるが、今年度行ったのは15 T以下であり、量子振動との関連も含めてより高磁場での測定を行う。45 Tまでの強磁場下での測定を行うために、外部研究機関における測定を計画している。さらにトポロジカルな性質との関連を議論するために、表面電気伝導の性質を明らかにする。(2) 近藤絶縁体における量子振動ならびに中性フェルミオン励起の普遍性を検証するために、他の近藤絶縁体(CeRhAs,Ce3Bi4Pt3、FeSi)における強磁場電気抵抗測定、熱輸送測定、磁気トルク測定を行う。また、量子スピン系、とりわけ中性マヨラナフェルミオン励起が期待されるキタエフ量子スピン液体候補物質(α-RuCl3を除くNa2IrO3, Li2IrO3など)における熱ホール効果測定を行い、マヨラナフェルミオン励起が現れる条件を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 7件、 招待講演 8件) 備考 (1件)
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